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[サステナビリティ紀行] 種から考える、食と農の未来
2018/01/30


食と農は、持続可能な未来を考える上で非常に重要な問題です。食料安全保障を守りつつ、生物多様性豊かな農業を守っていくために、私たちにはどのような視点が求められるのでしょうか?たねと食とひと@フォーラム事務局の西分千秋さんに伺いました。

米国では1903年から1983年までに農業での生物多様性(農業で栽培している種子の種類)の93%が失われたと言われています(参考記事>>>オルター・トレード・ジャパンのサイトが開きます)。同様に日本でも、栽培される農作物の種類が減少していると言われています。なぜこのような変化が起こっているのでしょうか。


種について学ぶワークショップを開催

本来、作物は人の手で大事に育てられてきました。植物がなければ、動物も人間も食べるものがありません。私たちはそれぞれが生きる場所で家族や家畜が食べるための作物を育ててきました。植物は花から実をつけ種を残し、次の年へと子孫を残します。

人間が農業を始めて以来、効率的に美味しいものを収穫するために、品種をかけ合わせて植物に少しずつ手を加えて進化させてきました。病気に負けなかった作物同士をかけ合わせれば、次の年には病気に強い作物が育ちます。品種改良の始まりです。美味しく、強い作物の種は次々と人の手に渡り地域の特産物になることもありました。それまでの品種改良は人の手で自然な形で行われてきました。

現在、効率よく収量を確保するために、自然な状態ではあり得ない操作を施された遺伝子組み換え作物がどんどん開発されています。一部の多国籍企業がビジネスの名の下にそれを利用するようになりました。種は工業製品のように扱われ、遺伝子組換え作物は本来の作物を淘汰する勢いで広がっています。企業が作らせたい、食べさせたい作物が市場を占めるようになりました。

種の多様性を守ることは、何故大事なのでしょうか?「種子法廃止」が注目されていますが、どのような影響が考えられるのでしょうか。


絵本というわかりやすい表現で
出版した「たねがいのちをつなぐ」

自然との調和をはかり地域で守り育んできた多様な種と農、食文化、暮らしは、私たちの環境と生物多様性を守ってきました。しかし自由貿易の進展の結果、国内的には農林水産業や農山漁村の衰退、世界的には多国籍企業による種と生産の独占が進んでいます。自然に対する尊敬と畏れに基づき多様性と持続可能性を大切にする農業ではなく、植物工場のような極端にシステム化された農業が増えつつあります。昔ながらの農の営みは失われ、今まで当たり前に食べていた作物を手に入れられなくなるかもしれません。

主要農作物種子法は稲、大麦、はだか麦、小麦及び大豆の優良な種子の生産及び普及促進、品質の改善を図るための圃場審査、普及すべき奨励品種の指定等、国の管理の下、都道府県が行うべき役割を定めています。平成26年3月現在で、米の奨励品種として延444品種、大豆では延115品種、麦では延147品種の地域に適した多様な品種の原々種、原種が生産されていました。

種子法があったことで、一般的に需要が多くなく民間では生産できないが地域にとっては大切な品種の種子を都道府県で生産し続けることができてきました。種子法廃止後は地域に適した多様な品種の種子の生産を継続できるのか懸念されます。

食糧安全保障と、生物多様性豊かな農業を両立するためには、どのようなパートナーシップが必要だと考えますか。

量的な食料の供給確保を主な目的とする「食糧安全保障」という概念があり、これは大切なことですが、一方で、それぞれの国や地域の人が何を作り食べるかを自分たちで決める「食料主権」という権利も大切です。

食料主権を尊重し、食糧安全保障と生物多様性豊かな農業を両立するには、現行では制限されている、農家が自ら種子を保存、利用、交換、販売する「農民の権利」を実現する必要があります。農民も含めた地域の市民が、自分たちの食べるもの作るものは自分たちで決めるという、食料主権と農民の権利を意識した行動や取り組みが必要です。

西分千秋(にしぶん ちあき)
大阪府出身。千葉県在住。1962年生まれ。遺伝子組み換え及びゲノム編集、主要農作物種子法廃止等と私たちの食と農、食品表示に関する問題に取り組む。2011年11月食品表示を考える市民ネットワークを結成、事務局長。2013年12月たねと食とひと@フォーラムを設立。2016年6月より事務局長。出版物として絵本「たねがいのちをつなぐ」、講演録・DVD「ゲノム編集で食と農はどうなるか」(発行たねと食とひと@フォーラム)