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[サステナビリティ紀行]アートの力で子どもたちにサスティナビリティを伝える
2023/07/26


アートやスポーツの力は、環境問題などを知ってもらうために効果的なものとして活用されることがあります。子どもたちにとっては楽しく遊びながら、驚きや感動を得てさまざまな問題に触れる機会として有効でしょう。7月1~2日に築地本願寺にてサステナビリティ・フェスティバルを開催された「文化・芸術とスポーツの融合を推進する会」の白井さんからお話を伺いました。
一般社団法人 文化・芸術とスポーツの融合を推進する会ウェブサイト

質問1:アートとスポーツの融合をテーマに活動されているということですが、SDGsはどのように関連してくるのでしょうか? 団体の紹介も併せて教えてください。

スポーツを輸入した明治政府は、スポーツ(Sport)を体育(Physical Education)と訳し、義務教育の一環としました。しかしスポーツは美食や音楽と同様、それ自体が文化であると同時に、夢や理想のように新たな文化を生み出すきっかけとなる「人間ならではの非生産的行為」です。
ところが義務教育とされた日本では、スポーツ本来の自由に自主的に楽しむ姿が歪められ、スポーツと文化・芸術はまったく別物と捉えられてきました。しかし、このふたつは一体を成すものであり、一過性のブームや営利活動の手段に終わってはならない大切な人間の営みです。
SDGsが掲げる理想は、生産性至上主義ともいうべき人間の営みが、地球を瀕死の状態にまで陥らせた反省から生まれました。掲げる目標は、スポーツと文化・芸術が活き活きと存在するためにも達成すべき、そして当たり前の目標だと思います。
そうした考えから当会では行政とも連携し、とりわけ子どもたちに向けたアートとスポーツの融合を図るイベントを実施しております。

 

(2018年10⽉6日(土)・7⽇(日)築地本願寺で開催された『世界はみな友だちフェスティバル』では、「世界はみな友だち」というテーマで30mの強靭な和紙にさまざまな国籍の子どもたちが一緒に絵を描いた)

質問2:アートとスポーツの融合、ですか? 2018年に東京五輪の文化プログラムとして実施されたと伺っていますが、具体的にはどのような内容だったのでしょう。

同年7月に港区と日本トライアスロン連合との連携で『アートでスポーツを応援しよう!』を実施し、300人の子どもたちがオリンピアン、パラアスリートと一緒に10mのキャンバス3点に絵を描きました。テーマはトライアスロンにちなみ、それぞれスイム・バイク・ランです。
IOCは五輪憲章でオリパラの精神は、文化芸術・教育との融合にあると謳っています。その精神に基づきスポーツというものを「アートで表現する」という具体的な方法を提示したつもりです。
こうした体験を通し子どもたちに競技への理解、オリンピアンだけでなくパラアスリートとの触れ合いから「何物にも屈しない心」を学んでもらおうと思いました。そして自ら創造性を発揮することで、スポーツとは文化・芸術のカテゴリーであるという事実を体感してもらおうとしたのです。


(10mのキャンバスに描かれたのは、トライアスロンにちなみスイム・バイク・ラン)

質問3:今回の『サスティナビリティ フェスティバル・イン・築地本願寺』は、2018年10月の東京五輪文化プログラム『世界はみな友だちフェスティバル』の第 2 弾と伺っております。テーマはスポーツから「環境」に変化したのでしょうか?

当初、第2弾として考えていたのは築地場外でご商売をされている方から、日本で最初にサッカーをしたのは築地の海軍兵学校寮チームだと伺ったので、2022年のW杯カタール大会に向けた日本代表を応援する企画を進めていました。
ところがご存知のように、コロナが猛威を振るい出し総てが止まってしまったのです。文化・芸術やスポーツは言うに及ばず、人の移動もコミュニケーション手段も断たれました。地球環境の破壊に伴うこの新型ウイルスの出現は、私にはSDGsが掲げる目標を遅々として実現しない人類への警告に映ったのです。そこで喫緊の課題として「食」とアートをテーマに環境問題を考えることにしたのです。

(2023年7月1日(土)・2日(日)築地本願寺の正門に飾られたフェスの看板。その左に案内所や10軒の生産者が出店したテントやキッチンカー、トレーラーハウスを望む)

質問4:なるほど。具体的にはどのような内容だったのでしょうか。

SDGsの精神を追求している画家の展覧会とワークショップ、生産者による子どもたちに向けた寺子屋、その生産物を買うことのできるマルシェの4点で構成しました。
SDGsの精神は多くの学者や研究者が詳しく述べていますが、子どもたちにはもっとリアリティのある話を聞かせてあげたくて、常に地球と対峙している生産者たちに講義をお願いしました。この方々が語る日々接している自然の素顔は、子どもたちの想像力を充分に刺激すると思ったからです。
そして子どもたちをお連れくださる保護者の方々には、生産者・関係者たちの生産物を買うことのできるマルシェを設け、お買い物を楽しめるような計り事(笑)をしました。
ワークショップのテーマは「森をつくる子~水と緑とやさしく暮らす~」でしたが、募集段階で定員100名を超す応募があり、皆さまのアートはもちろん環境問題への強い関心を実感しました。

(ワークショップでは、1.8×10mのキャンバスに100人の子どもたちが一緒に描いて作品を完成させた)

質問5:イベントをやってみて良かった点やご苦労があった点、今後の活動のヒントになると思った点などあったら教えてください。

ご苦労…はあり過ぎてとても語り尽せませんが、環境というテーマは多くの方が使命感に近いものを感じておられるようで、嫌な気分にされることは皆無に近かったですね。今後のヒントになるかは判りませんが、子どもたちはエネルギーがあり過ぎますから、何であれ身体を動かすことのできる空間の設えが必要で、そういう意味では、広々とした会場を提供くださった築地本願寺には感謝をしています。

質問6:開催地の自治体や教育委員会、企業・団体などの組織との連携があったかと思います。パートナーシップに関して、普段から思うことや団体で心掛けていることなどについて教えてください。

今回のフェスは中央区と教育委員会、東京都、環境省が後援してくだり、多くの企業・団体のご支援もいただきました。ただ皆さま問題意識はもっていても、多岐に亘る日常業務に手足を縛られ、積極的に参画したい気持ちはあっても、時間やおカネ、人手が足りないという印象です。
大事なのは持続可能性なので、ワークショップの完成作品を巡回展示で多くの方に観てもらいたいと思いクラウドファンディングに初めて挑戦いたしました。しかし幹事社との意識の落差があり過ぎ失敗に終わりました。
SDGsという言葉は浸透していると思いますが、その目標や精神にまで意識が届いているかと言えば、そこは疑問が生じます。「できることから始めよう」という掛け声は、それはそれで正しいと思いますが、意地悪く言えば、何が「できること」かがよく判らなければ始められません。SDGsはその目標や精神の周知にもっと力を注ぐべきではないでしょうか。 

 

プロフィール:白井 康裕(しらい やすひろ)
白井 康裕一般社団法人 文化・芸術とスポーツの融合を推進する会(CSSP)代表理事/東京都中央区「文化プログラム」応援委員会 事務局

学習院大学法学部政治学科卒業後、婦人画報社(現ハースト婦人画報社)に入社。
美容専門誌を始め『25ans(ヴァンサンカン)』、『婦人画報』、『MEN’S CLUB(メンズクラブ)』、オペラの単行本などの編集に携わり、故・高円宮憲仁親王殿下の「芸術家対談」などを担当。
現在は独立し、内外で活躍する日本人アーティストのマネージメント&プロデュースを行う。