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[サステナビリティ紀行]戦後80年 被爆者の記憶を世界の記憶にするために
2025/05/28

今年は戦後80年です。SDGs達成の基盤である平和な世界を築くために、市民社会でも様々な活動が展開されています。一方、世界では今も戦争が続き、核兵器の恐怖に脅かされている状況です。どのように私たちはこのことを捉え、考えるべきでしょうか。戦争経験者、被爆者の想いを伝え、核のない世界を実現するために、この課題に取り組んでいる一般社団法人かたわらの代表理事、高橋悠太さんにお話しを伺いました。

質問1:核兵器の問題について団体ではどのように向き合っていますか。世界の現状と団体の活動について教えてください。若い方が多い団体ですが、団体の特徴についても教えてください。

G7や国連「未来サミット」、核拡散防止条約(NPT)会合などで政策提言を行い、核兵器廃絶と、被爆者団体と意見交換して、被爆者の皆さんのメッセージを世界に届ける活動を行っています。また教育プログラム開発も行っています。大学生・大学院生の理事・インターン3名を中心に計6名で運営(拠点は横浜と広島)。「あの日」の広島・長崎を見た訳ではないので、「被爆者」のようには語れません。ただ、彼らのメッセージを聞いて、それを世界に届けることで、被爆者の記憶を世界の記憶にすることはできると思っています。法人名には、「核兵器をなくそうとするあなたの傍に」という意味を込めました。市民や若い世代の拠り所となるコミュニティを目指しています。

C7市民社会会合(カナダ)で、パキスタンとバングラデシュのNGOと
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質問2:平和や核兵器・核軍縮について、SDGsに関心を寄せる人たちにはどのように伝えたり、関わってもらうことができるとお考えでしょうか。

まずは、被爆者や、世界のグローバルヒバクシャの証言を聞いてもらえたら、嬉しいです。
国連事務総長は、「核戦争発生のリスクが冷戦後最も高い」と警鐘を鳴らしています。核軍拡の時代になり、世界には実際に使用できる現役核弾頭が9,583発(24年RECNA)もあります。18年比で3.6%、336発も増えています。
一方で、世界では約2050回の核実験が行われてきました。太平洋のマーシャル諸島で、米国による核実験の影響は、広島型原爆が12年、毎日爆発したそれに匹敵すると言われています。その後、核廃棄物をコンクリートで埋め立てた「ルニット・ドーム」は現在、経年劣化と気候変動により周囲の海を汚染し、住民の故郷への帰還を阻んでいます。核の問題は、安全保障の問題であると同時に、人権の問題だと感じています。

質問3:国連プロセスの他にG7などにも積極的に国際会議にも関わっていらっしゃいます。戦後80年という節目の年に行うイベントや政策提言などがあればご案内ください。

現在開発中の小中高生向けの教育プログラム「タイムトラベラー」には、実際の被爆証言を基に、イメージワークを取り入れています。証言を基にワンシーンを、絵(または映像)で再現し、あなたならどう対応するか、考えてもらいます。例えば、私が中学校3年生の時に出会った坪井直さん(日本被団協元代表委員)の証言。投下直後、傷ついた少女が軍の救助トラックに乗り込もうとします。さて ――「あなたがこの時代の軍人なら、少女を助けますか?」――。実際の証言では、軍人が「一般人は後回しだ」と少女をけり落します。惨い光景ですが、戦時中の軍人には当然の行為だったのでしょう。新聞の見出しや教育の標語からも時代背景を実感できます。これを関東のいくつかの自治体の平和事業で展開予定です。戦後80年、戦争で最初に犠牲になるのは誰なのか、人の感覚を狂わせる戦争というシステムとは何なのか、考えていきたいです。

戦争体験の継承を考えるワークショップを横須賀で開催
戦争体験の継承を考えるワークショップを横須賀で開催

質問4:核兵器のない世界にするために、多様なステークホルダーとのパートナーシップについて大事と思う点、心がけている点などあれば教えてください。

「G7に日本の市民社会の声を届けるプロジェクト」を立ち上げ、多分野の市民の皆さんと、垣根を越えて、平和やSDGsの実現を目指しています。軍縮しようと思える環境づくりには、核兵器の非人道性を伝え、人間に対して使用してはならない規範の強化が必要です。ただ私はそれだけでは不十分だと考えています。なぜならその根幹には、経済や食料の対立や、気候変動・難民問題などによる不公正と分断、ヘイトの蔓延などがあるからです。近年では、「男らしさ」を主張する手段として核兵器が開発維持されてきたとの研究もあります。さらに各国の対外援助は、軍事費に振り向けられています。まずは市民社会が一致してSDGsに掲げられているような目標を達成しないと、核兵器もなくならないと思っています。翻って、読者の皆さんが取り組まれているジェンダー平等や地域の気候変動対策を目指す取り組み、すべてが、本質的に、核兵器を維持する構造を解体する力になっています。どういう社会を作っていきたいか、一緒に考えられたら、嬉しいです。

 

プロフィール:高橋悠太
高橋悠太一般社団法人かたわら代表理事
2000年広島県福山市生まれ。中学1年からクラブ活動で被爆者らと出会い、核廃絶署名活動に参加。大学時代、国会議員への面会や被爆証言会などを行う。卒業後に、かたわらを設立し、平和を作ることを仕事にした。

■参考サイト
一般社団法人かたわら
https://www.katawara.org/