サステナビリティCSOフォーラム

HOME > インタビュー > 【自治体トップインタビュー】 長野県 中島 恵理 副知事に聞く

【自治体トップインタビュー】 長野県 中島 恵理 副知事に聞く
2019/01/9

SDGs未来都市としての長野県の取組として特徴的なものを教えてください。


インタビューに答える中島恵理副知事

県の総合5か年計画「しあわせ信州創造プラン2.0~学びと自治の力で拓く新時代~」の中にSDGsの概念をしっかり位置づけました。17の目標をどう達成していくかという視点と、環境と経済・社会をなるべく統合して、一つの政策が複数の効果を出せる、そんな取組を積極的にやりましょうと庁内で議論しています。
SDGsは、貧困の克服が重要な柱ですが、例えば、一定の初期投資が必要な再生可能エネルギーの普及は、真に経済的な余裕のない方々にもメリットが及ぶことが重要です。
例えば、公営住宅の建設についても、断熱性を高めて省エネ化する。また、子育て世代に配慮したものにする。そうして子育て家庭がなるべく安価に入居できるようにする。そういうことを打ち出しています。
また、「信州子どもカフェ」という子どもの居場所づくりの取組があります。いわゆる子ども食堂は、貧困対策、つまり福祉の取組として始まったのですが、そこにリユースやリサイクル、フードバンクと連携した環境の取組を連動させています。
これまで、貧困対策が前面に出るとなかなか人が集まって来なかったのですが、環境の取組とも合わせることで、幅広いお母さん層が活動に参加するようになりました。
当初はフードドライブを県で実施するにあたり、福祉と環境のそれぞれの担当課のどちらが担当するのか、戸惑いもありました。そこを私がやろうよと声をかけて、合同の会議を行い、現場に浸透させていきました。これらは長野県らしい取組だと思っています。

SDGsの取組を部局間で組み合わせていくような仕組みやルールについてお聞かせください。

それは難しいことですね。信州子どもカフェのように、具体的な取組に即してコーディネートしていくことが大切です。その意味で、幹部職員の役割は重要だと思っています。庁内に部局長会議とか、地域に協議会とかをつくるだけではダメです。具体的なことで結び合わせていく努力が行政には求められています。
長野県では、2011年7月に発足した「自然エネルギー信州ネット」という行政・企業・市民のパートナーシップ推進組織があります。ここでは、組織のつくり方から運営方法、プロジェクトに至るまで、行政や企業、そして市民団体も対等に議論を交わしています。私はここで多くのことを学んだと思っています。

地域での実践を育てるという観点ではどうでしょうか。

今年度は「信州環境カレッジ」という新たな施策を立ち上げました。これは、学校や地域での環境に関する学びを推進するために、地域の企業や環境団体・グループなどによる講師派遣を推進する仕組みづくりや講師料の支援などを行っています。まだ試行錯誤の段階で、発信力が足りない点や、県が主催する講座などで講座内容を充実させていく必要があります。
また、地域での関係づくりが重要です。特に、学校と地域をつなぐコーディネートの機能が重要だと考えています。これらの課題解決に向け、来年度は、さらに力を入れていきます。

全国的にはSDGsという言葉だけが一人歩きしている感がありますが、どのように思いますか。

私も環境省にいて、ESD(持続可能な開発のための教育)の施策に関わっていたときには、ESDという言葉を浸透させるところに力を注いでいたのですが、地域に行くとESD的なこと、ESDに合致したことが、実際にたくさん行われているのです。だから、これがESDです、持続可能な社会をつくることにつながることですと、実践を認め、それがさらにSDGsの方向でうまくいくようにサポートすることが大事だと今は思っています。

SDGsに向けて民間事業者の自主的な取組を促す仕組みを教えてください。

「しあわせ信州創造プラン」を策定するときに、各取組をSDGsの目標に紐づけをすることと、環境・経済・社会を統合した取組を検討することは、まず第一歩であったと思っています。現在進行中の来年度事業についても紐づけ作業はやりたい。県庁内では、少しずつですが、そのようにしてSDGsが意識されるように努めているところです。
民間事業者の自主的な取組を促進するということになると、重い課題です。県内では、太陽光発電所をめぐって、自然環境や地域のニーズとの調和が問題になっています。国に先駆けて、太陽光発電所を環境影響評価条例の対象にすることもしていますが、条例の対象とならない規模のものが多く、その部分では事業者による自主的な環境配慮を促していく必要があります。
今後は、EUなどのように、「持続可能性評価」という方向に進んでいくべきだろうと考えています。その点では、かつて阿智村で、産業廃棄物処分場をめぐって社会環境評価という取組もありました。長野県にはそういう先取的な風土があります。これこそパートナーシップが求められているテーマかもしれません。
SDGsが、単なるお題目として、総合計画などに掲げられるだけでは実効力を持ちません。県のあらゆる施策はもとより、民間の事業においても、SDGsを意識した事前配慮や点検・評価などが行われるような状況をつくり出していく必要があります。様々な関係者の皆様の知恵をお借りしながら、一緒に仕組みづくりを考えていきたいと思います。
そうした方向性を見据えつつ、具体的な実践を通じて、SDGs未来都市としての役割はどういうことなのか、示していきたいと思います。
[インタビュー実施:2018年11月26日]