【自治体トップインタビュー】 大津市 越 直美 市長に聞く
2019/01/9
大津市はSDGsの推進を早い段階から打ち出されていますが、市としてSDGsを推進しようという動きに至った経緯について教えてください。
インタビューに答える越直美市長
大津市では、まず、2017年2月に国連環境計画金融イニシアティブ特別顧問の末吉竹二郎さんをお招きして、SDGsに関する職員研修をしていただき、SDGsを学び始めました。同年6月には、国連事務次長補であるトーマス・ガスさんをお招きし、滋賀県とともにフォーラムを開催したのですが、市内の中学校も訪問してくださって、中学生にSDGsに関する話をしてくださいました。その時に、自分たちが履いている上履きが海外で作られたものであり、その作り方によって、環境破壊につながってしまうこと、もしくは環境を守ることにつながることを、中学生にも分かりやすく伝えていただいたことで、私自身がSDGsを遠い世界の話ではなく、私たちの生活が世界と切り離せないものなのだということを改めて確認する機会になりました。こうした流れを受けて、2018年4月にも「食」に関する活動家であるアリス・ウォータースさんを米国から大津市にお招きしました。アリスさんからは、スローフードや、野菜を作る段階からオーガニックで育てることの重要性などについて、お話いただき、また、大津市内の学校の「エディブル・スクールヤード」も訪れていただきました。
大津市では、LGBTの人々に対する社会の理解を促進する「おおつレインボー宣言」やジェンダー・ギャップの解消を目指す「Otsuプロジェクト-W」といった世界の中で日本が弱い分野について、積極的に取組を進めている印象があります。実際の効果や、取り組む中で見えてきた課題や展望についてお聞かせください。
私は、東京で弁護士として働いていた頃に、育児と仕事の両立が難しいという現実を目の当たりにしました。その後、米国の弁護士事務所で働いたのですが、女性パートナー(経営者)の数が多く、男性も育児休暇を1年くらい取得しており、子育ては女性だけがするものではないという価値観に衝撃を受けました。そして「女性が自由に選択できる社会をつくりたい」と思ったことが、私が市長に立候補した動機です。
例えば、6年間で保育園の施設数を増やし、入所定員を約2300人増やしたことで、2015年から3年連続で年度当初の待機児童数をゼロにすることができました。かつては、女性の年齢階級別有業率は20歳代半ばを境にして落ち込む「M字カーブ」を描くという状況が大津市でも見られました。しかし、保育園の整備などを通じて、大津市は「M字カーブ」を描く状況から脱却することができました。これは、SDGsの目標5「ジェンダー不平等をなくそう」に沿う取組です。
この実現にあたっては、大津市役所から男性職員の育児休業取得者数を増やそうと取り組んできました。そのため、育児参画計画書という書類を所属長に提出することで、早い段階から仕事の調整を可能にして、男性職員が、10日間の「育Men休暇」を必ず取得するような環境を作っています。長期の育児休業については、かつては男性職員がほとんど取得していなかったのが、平成28年度でおよそ10%まで取得率が伸びています。一方で、社会全体で女性も男性も、仕事も子育てもできるような環境を整えるには、行政だけではできません。企業の協力なども得ながら、男性の育児休業を促進し、女性の管理職数も増加させていけるよう進めていきたいと思っています。
LGBTに関しては、大津市にお越しになる外国人観光客数が直近4年間で4倍に増加していることを受け、接遇や対応に関するホテルや旅館向けの研修を行うなどの取組も進めています。また、市役所内でも当事者の声を含めた研修を実施しています。
大津市における持続可能な地域づくりや、市民協働など行政以外の主体との連携状況について教えてください。
SDGsに限ると、本来食べられるにもかかわらず廃棄される「食品ロス」を減らしていくために、市内の飲食店と協力してドギーバック運動に取り組んでいます。生ごみの廃棄量は市の廃棄物処理においても大きな割合を占めています。そういった観点からも、ドギーバック運動は、環境問題の解決に寄与できると考えています。実施にあたっては、厚生労働省から示されている食品の持ち帰り基準を参考にしながら、市内の飲食店にポスターを貼っていただくなどして周知しています。
その他にも、市の廃棄物の中で、生ごみと並んで割合が高いのは紙ごみでした。そこで、SDGsの図柄を印刷した「雑がみ用ごみ袋」を市内の商店街で、買い物に来た市民に向けて無料配布を始めています。大津市も最近5年で10%ほど廃棄物の総量を減らしました。その要因として、生ごみの水分を絞ることや、紙ごみを分別することなどの取組が挙げられます。さらに、今回はこれまで燃えるごみとして捨てられていた小さな紙ごみを分別する取組を開始しています。こうした取組も市民とのパートナーシップなしでは実行できない取組であり、まさに協働であると思います。
最後に、今後SDGsを活用することで解決したい大津市の課題等はどのようなことでしょうか。また、解決に向けた展望についてもお聞かせいただけますと幸いです。
SDGsは誰もが参加できるという観点が非常に良いと感じています。例えば、社会貢献活動は定年退職された世代が取り組んでいらっしゃることが多かったのですが、最近では大学生がSDGsの達成に向けて取り組んでおり、大学生と社会とのつながりをSDGsが生み出しています。SDGsは、こうした若者や企業の参画を促すツールになると感じています。また、ジェンダー平等やLGBTについても、SDGsをきっかけに大学などで取組を実施し、若者を巻き込んで取り組んでいきたいと考えています。
[インタビュー実施:2018年11月14日]