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【自治体トップインタビュー】 珠洲市 泉谷 満寿裕 市長に聞く
2019/02/20


はじめに、珠洲市のSDGs未来都市への応募から選定に至るまでの経緯や成果、そして、泉谷市長のSDGs未来都市への思いについてお聞かせください。


インタビューに答える泉谷市長

私が市長に就任した2006年当時から、珠洲市で最大の課題は人口減少です。1954年に珠洲市の人口は3万8千人でしたが、現在では1万5千人を下回る状況です。まずは、人口減少に歯止めをかけるために、地域経済を活性化させて、若者の就労環境を整える必要があります。そのために珠洲市の強みを考えると、食材、食文化を含めた「食」を中心に、農林水産業の発展と組み合わせて、交流人口の拡大を図っていこうと考えました。その一環として、大浜大豆という在来種を活用した「寄せ豆腐」を作るといった地域起こしをしている地域があるので、道の駅を建設し、年間を通じて販売する環境を整え、関係者は豆腐作りの修行に輪島や京都に行っています。私自身、Uターンで珠洲市に帰って来たので、道の駅建設以前の狼煙町地域の賑わいの無さに衝撃を受けました。そこで、行政が支援するのではなく、一緒になって取り組んで行こうと2009年に道の駅を建設した結果、地域に賑わいが戻りました。これは私や珠洲市にとって大きな成功体験となっています。
一方、珠洲市をブランディングするために、自然と共生する珠洲市を目指そうと打ち出したところ、2006年に金沢大学が空き校舎に里山里海自然学校を整備してくれました。翌年からは、同学校を活用した人材育成事業もスタートすることができました。はじめは奥能登の行政職員や農協職員が学ぶ場でしたが、東京など県外からの参加者も増えて、取組が活発になり、現在では165人の卒業生がいます。また、2011年には、能登の里山里海がFAO(世界食糧機関)から世界農業遺産に認定されました。このように、大学と連携して人材育成事業を行って来ましたが、銀行をはじめとした珠洲に所在する既存の事業所の業績拡大に向けて、何か研究機関と一緒にできないかと考えていたところ、国連大学の参画があり、能登SDGsラボという、従来の産官学の枠組みに金融を加えた「産官学金」のプラットフォームを中心とした事業をSDGs未来都市の公募に応募し、内閣府から認定を受けるに至ったのです。

珠洲市ならではのSDGs取り組みについて、概要や特徴をお聞かせください。

先ほどお話した能登SDGsラボのほかに、里山里海における生物多様性の保全と活用、里山里海自然学校の人材育成事業、同様にフィリピンのイフガオ州で実施している人材育成事業などの国際的な連携、自動運転の実証実験に代表される金沢大学との連携、奥能登国際芸術祭という芸術祭を活用した地域振興を組み合わせてSDGsを推進していこうと考えています。奥能登国際芸術祭は、SDGsの目指す平和な世界の存続に向けて、効果を可視化しづらい分野ですが、芸術の力を活用できるという事例であると思います。国連の中でも、アートツーリズムの重要性が議論されていますが、芸術は様々な分野で用いることができる重要なツールであると感じています。
また、これまで取組んできた環境や社会に関する事業を継続しながら、経済を活性化させていこうと考えています。例えば、スマート福祉の実現に向けた自動運転システムの実証実験は、幹線道路を中心に市内全域、総行程約60kmで実施しています。これはボストン市が実施しているUberと自動運転を組み合わせた交通機関の整備に向けた取組と酷似していまして、まさに世界最先端の取組であると感じています。
その他にも、再生可能エネルギーの文脈では、珠洲市に設置してある風力発電、太陽光発電システムで、珠洲市全体の電力を賄うことができるだけの発電量があります。まさに、珠洲市の電気は風でできていると言っても過言ではないのです。このように、これまで取り組んで来た実績と、これからやらなければならない課題をSDGsがつないでいると捉えています。

珠洲市における持続可能な地域づくりや、市とその他の主体との連携状況について教えてください。

今まさに、商工会議所を通じてアンケートを実施し、市内企業のニーズを把握しようと努めているところです。また、10年ほど前から金沢大学、石川県立大学、金沢美術工芸大学、金沢星稜大学と協定を結んで学術機関との連携を深めています。その結果が、市内で行われているスマート福祉の実現に向けた自動運転システムの実証実験につながっています。産官学金のプラットフォームである能登SDGsラボは10月に開所したばかりなので、これから市内外からの反響が聞こえてくるところだと思います。地域における取組が浸透して、結果が出るまでは非常に時間を要すると感じています。様々なアクターが利害関係でつながっていた歴史は長かったと思いますが、SDGsをきっかけに環境・社会・経済で総体として理想の社会を実現するために、利害関係者それぞれが持続可能な社会を念頭に置いて、互いに協力していかなければならないと考えています。

最後に、今後SDGsを活用することで、新たに見えてきた課題等がありましたら教えてください。また、解決に向けた展望についてもお聞かせください。

これまで珠洲市で育った子どもたちが、一旦は進学などで珠洲市を出ても、また珠洲市に戻って来て欲しいと考えていました。そのために、ふるさと教育も学校で行って来ましたが、SDGsの視点で考えたことで、国際的に活躍する人材を輩出することも必要だという視点を得ることができました。珠洲市の人口減少という課題解決への取組が、SDGsを通じて世界の課題解決への貢献につなげることができるという可能性を感じています。

[インタビュー実施:2018年11月27日]