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【自治体トップインタビュー】 豊岡市 中貝 宗治 市長に聞く
2019/01/9


豊岡市における環境保全に関する取組や、SDGsが目指す持続可能な社会の実現に向けた考え方や取り組みについて教えてください。


インタビューに答える中貝宗治市長

豊岡市のまちづくりは、「小さな世界都市を目指す」という方向を明らかにしています。「小さな」という言葉を「Local」と訳して、「Local and Global City」を目指す。豊岡というローカルに深く根ざしながら、世界で輝く。そのことを通じて、小さくても良いのだという堂々とした態度のまちを作ろうという考え方が、豊岡市のまちづくりの基本的な考え方です。小さな世界都市になるための条件の1つが、環境への取組を徹底するということです。そのことを通じて世界に輝くという作戦体系になっています。そのシンボルがコウノトリの取組みです。
私がコウノトリの野生復帰を提唱し始めた27年前には、地方は都市との格差是正を一生懸命に推し進めていました。しかし、絶滅危惧種であるコウノトリの保全を通じて世界で輝く、豊かな生活のシンボルであるコウノトリを梃にして、「コウノトリも住める豊かな環境をつくる」ことが、世界に通用すると考えました。
「コウノトリも」の中には「あなた」も、「あなたの子どもや孫たち」も、そして「経済」も包含されています。環境保全で結果を出すには、長く続け、仲間も増やして、環境行動自体も持続可能性を持つ必要があります。そのためには、「経済」を味方につけた方が得です。コウノトリが飛んでいる光景を市民が見て「なんて大きな鳥なんだ、素敵だ。」という感動を受けた瞬間に、すかさず耳元で「コウノトリも住めるまちを作っていく方が儲かるよ」とささやくやり方です。
従来、日本には環境で儲けることに対するうしろめたい気持ちのようなものが見られましたが、豊岡市は環境経済戦略を推進し、「環境で儲けて良いのだ」と言い始めました。「コウノトリも」という言葉で一歩踏み込みやすくなって、さらに「環境で儲けても良いのだ」ということでさらにもう一歩踏み込みやすくなるのです。

豊岡市における持続可能な地域づくりや、市民協働など行政以外の主体との連携状況について教えてください。また、取組を進める中での課題や、今後の展望についても教えてください。

一番のお手本はコウノトリの野生復帰です。今あるものを守るためには、禁止や規制で可能ですが、失われたものを取り戻すためには、関係者が行動を起こす気になる必要があります。そのために、農家と対話を重ねてきました。農薬を使用する農家も、戦後の食糧不足の際には、いかにして食糧を提供できるかと必死でした。その時に、害虫や雑草を一掃し、効率的に作物を収穫するために農薬を使用したという行動は、ある種の合理性を有していました。もちろん、農家も自分の子供や孫のために安全なものを提供できているのかという葛藤はあります。そこで過去を一方的に否定するのではなく、ともに未来を考えることで、やっとスタート地点に立てるのです。
市では、「農薬に頼らない農法、技術体系の確立」と「コウノトリ米のブランド化」の2つを進めてきました。この過程は、農家、専門家、兵庫県、JA、市役所といった複数の関係者が協働しています。本当にパートナーとして一緒にやっていくことを考えると、「広く市民と」ではなく、まずは関わる利害関係者と協力し、広めていくというプロセスが重要だと思っています。市役所が、自分達に足りないところを外部とパートナーの関係を組み、共にチームとなって結果を出していこうと考えています。
課題は、協働するために誰と結びつくと良いのか、そのパートナーを見つけることです。市役所は、目標達成のために誰と結びついていくか見極めなければならない。お互いの誠実さ、意欲、能力、そういったものをどう見分けていくかが今後の課題です。つまり、市役所全体が目利きになることが、これからの大きな課題です。職員のセンスを上げるために、経済産業省、環境省や楽天や日本航空といった組織に職員を派遣しています。

環境とともにSDGsで解決を目指す「社会」や「経済」に関するまちづくりや産業について、どのような取組をされているか教えてください。また、SDGsを活用することで解決したい豊岡市の課題等はどのようなことでしょうか。

私たちがSDGsを明確に意識している分野は、ジェンダーギャップの解消です。「多様性を受け入れ、支え合うリベラルなまちをつくる」ということを小さな世界都市の条件に位置づけており、戦略的にジェンダーギャップの解消に焦点を当てようとしています。きっかけは、若者が都会に出て戻ってくる割合を示す若者回復率を見ると、女性が豊岡市に戻ってきていないことが明らかになったからです。なぜ女性が帰って来ないのか。私たちはその答えが「豊岡市が男社会であるから」であると考えました。都会の大企業はこの10年間、女性の働きやすさについて改善を続けてきました。しかし、豊岡市はその10年間、男社会の中で安住してきてしまったために、さらに差がついてしまった。私たちは、この課題を解決しなければ、まちの持続可能性は低いと考えています。
このように、地域の課題として捉えていかなければ、SDGsは自分たちの課題にはならないですし、それをグローバルな視野で見るということでSDGsは有効であると感じています。
[インタビュー実施:2018年11月5日]