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[開催報告]サステナビリティ円卓会議in四日市~持続可能な産業と暮らしのあり方を考える~
2016/02/25

2016年1月28日、三重県四日市市の「四日市公害と環境未来館」に、多様な主体の方に集まっていただき、持続可能な産業と暮らしのあり方について、話し合う意見交換のための会議(主催:一般社団法人環境パートナーシップ会議、協力:環境省中部環境パートナーシップオフィス)が開催されました。会議の開始前には、施設見学会も行われました。

事例報告

事例報告○国際環境技術移転センター(ICETT)総務部 環境広報課 参事兼課長 松永馨氏
「持続可能な社会を目指した環境技術移転による国際貢献」と題し報告。>>>資料icon_1r_32

○四日市再生「公害市民塾」伊藤三男氏
「持続可能な地域づくりのための市民アクション」と題し報告。
市民塾は、昨年亡くなった澤井余志郎氏らの呼びかけにより、四日市裁判の判決25周年に発足。主要なメンバーは山本勝治氏、澤井氏、伊藤の3人で、その付き合い始めは1970年頃に遡る。

吉村功氏(当時:名古屋大学助教授)や澤井氏とあと数名が、裁判の支援などを通して反公害というところで知り合った。既にその頃、澤井氏は公害を記録する会を運営していた。機関誌を作ろうという話になり、1971年2月に「公害トマレ」準備版を発行し、月刊でトータル100号まで発行。「公害トマレ」は理屈をこねるのではなく、市民団体である「四日市公害と戦う市民兵の会」として行ったことの報告や裁判の解説をした。「市民兵の会」は特定の代表を置かず、ゲリラ的な民兵としての取り組みということからその名前にした。

発足当時の1970年は騒がしい時代だった。「市民兵の会」は、20代の学生が大勢いたので、平均年齢が20代後半くらい。名古屋大学から来た学生も大学で学ぶことの意義に懐疑的であり、大学をやめて、四日市や水俣に住み着いた人も多くいた。NPOも含めて現代の市民運動に取り組んでいる人とは少しスタイルが違う。特に澤井氏は四日市在住で克明に日記を書いた人だった。当時のメンバーの高齢化は避けられず、行動力も落ちてくる。

大気汚染の状況は数値的には改善されてきた。そうなると、青空が帰ってきたことを行政は言いたい。それは公害がひどかった時期には言えないことだったので、「青空が戻ってきた」と言える自信が市にも出てきたことは、正の面としてみればよい。

僕ら自身も反公害を言い続けることは難しいと感じている。工場での災害や火災は、それはそれで問題だが、基本的に当時の公害は今の社会ではかなり抑えられている。今は環境という言葉にくくられている。1970年台は、環境と情報について学ぶ学科が大学にはなかった。

この施設「四日市公害と環境未来館」でも名称が議論になった。一部の市民は、公害という言葉は使いたがらなかった。この名称は妥協案ともいえる。しかも略すと「未来館」。「四日市公害資料館」だと人が来ないので、そこは痛し痒しの部分はある。

持続可能やサステナビリティも最近の言葉であり、自分としては少し違和感がある。人間や生物が暮らすに足りる環境を維持することが大事。それを私たちの言葉では、「公害のない社会」と言った。産業廃棄物の問題や原発の問題などももちろん含まれる。言葉として持続可能性では抽象化されてしまう。もっと我々の生活を脅かす問題があるのではないか。「市民塾」「市民兵の会」と古めかしい言い方をしているのも、近代的なものへのアンチでもある。

○環境パートナーシップ会議(EPC)副代表理事 星野智子
「国連の新目標に向けた国内での取組み」と題し報告。>>>資料icon_1r_32

○博報堂 広報室 CSRグループ 推進担当部長 川廷昌弘氏
「SDGsの社会実装に向けて 企業と市民の連携」と題し報告。>>>資料icon_1r_32

質疑応答
Q:CSRに対する企業の考え方の分類で、グループA「社会課題は『価値』と『投資』の対象」は、具体的にどういうことを指しているのか。
A:開発によって影響を受けて生活が危ぶまれる人に対して、企業がその技術や資金によって労働環境や生活環境を改善する機会を提供し、それで企業もきちんと生産が回ることが大事。投資をネガティブに捉えるのではなく、本来の投資の考え方として「世の中を良くする循環」として捉えることが重要。世論を作り、企業のトップを動かすには、投資家の視点が重要。

ディスカッション

ディスカッション【主催者より】(EPC星野)
「人が暮らすに足りる社会を維持するためには」「そのためにはどんな人との連携ができるか」という点でご意見やコメントをいただきたい。

【四日市再生「公害市民塾」 伊藤氏】
・私たちは、どういう社会を作るかという広い目線より、現実的な目線で具体的で身近な公害問題に対応してきた。公害はグローバルなものであり、四日市市では大気汚染の数値は低くなったが、中国など世界各地でむしろ広がっているという見方ができるし、日本の課題の原発の問題は最大の大気汚染ではないか。関心の集め方が大切だが、非常に難しい。人が暮らすに足りる環境が全ての人に担保できているのか、そこから見なおす必要があるのでは。

・「四日市公害と環境未来館」(以下、「未来館」)に小学生が見学に来ることが5~10年続いたら、家族や兄弟で話ができる。四日市公害を通して小学5年生の社会科を学ぶことができているのは、四日市市くらい。企業の中の話は市民塾ではやり切れないが、脱硫装置の詳しい説明や重油の改良の説明などの話について、未来館という場所を活かしてできればよいのでは。

【国際環境技術移転センター(ICETT) 松永氏】
・ICETTは受託事業が専門であり、従来はJICA、JETRO、環境省、経済産業省への広報は熱心な一方で、一般への広報はそこまでだった。最近、三重県環境学習センターと協働して中学生を招いたり、高校生に出前授業を行ったりなど、やっと広報し始めたところ。社会科5年生の教科書にICETTが載っていることもあり、もっと教育の場で広報していきたい。

・住友電装やJSRなどの企業は、CSRで環境に関してかなり取り組んでいる。日本レスポンシブル・ケア協議会の地域対話(四日市)などの事例もある。

・未来館で、大気汚染だけでなく騒音や振動などについても、企業が未来について取り組んでいることをPRすれば、来館者も増えるのでは。

【博報堂 川廷氏】
・SDGsは環境だけでなく、貧困のこともつながっており、各目標はつながっている。SDGsの全てに最初から取り組むのではなく、入りやすい入口から取り組むことが大事。四日市ローカルで行っていることでも、SDGsを意識すれば国連用語・共通言語で話すことができ、工場と本社をつなげるきっかけになる。私は東京で本社に対して訴えていくので、地域は地域で工場に働きかけることが一気通貫。これは本当に地球最後のチャンス。SDGsの採択のタイミングからして企業の反応が大きい。足元の四日市からSDGsを考えてくれ、というテーマは良い刺激になる。SDGsに照らしあわせた四日市モデル。グローバルの国という国はなく、ローカルの集合体でしかない。四日市はそのローカルの一つであり、そういう意味では強いコンテンツを持っている。

・SDGsに関わることはグローバル・コンパクト・ネットワーク・ジャパン(GCNJ)の価値に関わると、代表理事の有馬氏に働きかけている。GCNJには、日本の企業が約200団体加盟している。加盟企業の担当者は役員を説得するための資料と事例集を作ろうとしており、3月に企業セミナーでたたき台が発表される予定。各企業の目標に対する貢献の評価は次のステップ。

【協力者より】(EPO中部)
・三重県では海外の人と接する機会が少ない。ESDにおいて、子供の時に誰と出会うかが非常に大事。例えばICETTに研修に来た海外の方と地元の子供が出会う機会を作れないか。最初から全校は難しいだろうが、少しずつ教育委員会などと組みながら。高校生なら英語でも交流できるだろう。キャリア教育、環境教育、人権教育などにも関わる。海外から研修で来た人がそれを見て考えることもいいのでは。

・SDGs「目標8:適切な良い仕事と経済成長」について、四日市で学べることはたくさんある。

・エコパートナーのワークショップを行った。対象が企業、市民、先生、子供では様子が全然違う。未来館が、例えば2020年まで、もしくは2030年までに取り組むことの戦略会議を、ICETTなどと一緒に行いたい、サポートはEPO中部で行う。マルチステークホルダーのプロセスで行うべきで、市民や企業、金融機関と一緒に行うことが大事であり、未来館という拠点があるのはとても大きなこと。エコパートナー登録制度とはいえ、エコだけでなくジェンダーや子育てにも取り組みたい。

・SDGsに対する各企業の貢献を、チェック表を用いて全国で評価してほしい。

【参加者より】
・企業理念や創業者の思いに従って活動している企業とNPOとで組みたいが、そのための話し合いやマッチングがまだできていない。マッチングには、中間支援組織だけではなく、地元の金融機関の関わりが圧倒的に重要。

・四日市の工場はB to B のものが多く(中間材料)、市民には馴染みが薄い。四日市市民はICETTを知らないのでは。海外の教育も大事だが、地元の教育も大事。三重県の環境学習センターとICETTと合同で合宿型研修ができないか。四日市内の人間を活用してもらいたい。

・規模に関わらず、つなげる人の存在は大事。生きていくのに足りる部分は、日本社会では十分なのかどうか。本当の意味で貧困を救う商売のあり方が求められているかが問われる。

・公害市民塾の方の話の中で印象的だったのは、「コンビナートが来てみんなが喜んだ」ということ(戦争から高度成長に向かって行くという背景)。公害を学ぶときには被害だけでなく、背景にも注目すべき。今の時代でも、皆が大賛成で経済を優先する面もある。ただ、その先に困る人や被害を受ける人がいることを学んでもらいたい。

・公害を学ぶことは大事だが、公害で学ぶことも大事。四日市市民が学ぶことが、先輩世代に対する責任。公害が終わったことを知らない人、未来館ができたことを知らない人にこそ、来てもらいたい。エコパートナー制度の中にも企業が参加しているので、その事業の中でもできるのではないか。

・環境計画の根本は環境を誇りにする町。地元の人が地元のことを好きにならないといけない。未来館という拠点をスタートにしたい。戦略や伝え方のノウハウは、様々な方と一緒に検討したい。

・未来館ができたことの評判は県外からよく聞く。決してマイナスではない。

【主催者より】(EPC星野)
SDGsに取り組むことは、持続可能な産業のあり方にもつながる。四日市のある三重県で、今年の5月に伊勢志摩サミットが行われる。SDGsができてから最初のサミット。3月末までに政府が準備をするとのこと。東京の動きと地元の動きを連動させようと東海エリアでつながろうと思っている。引き続きよろしくお願いします。