[サステナビリティ紀行] 生物文化多様性圏いしかわ金沢モデル~豊かな里山里海がSDGs達成を助ける~
2019/03/15
国連大学サステイナビリティ高等研究所 いしかわ・かなざわオペレーティングユニット(UNU-IAS OUIK、以下OUIK)は2008年4月に国連大学高等研究所の(当時)唯一の国内フィールドとして設立されました。国連機関が石川県および金沢市という自治体と共同で運営し、地域の現場と国際社会を結びつけるユニークな事業を展開しています。今回はOUIK事務局長の永井三岐子さんにお話を伺いました。
いしかわ金沢モデル
石川は豊かな里山里海や生物文化多様性で知られています。2011年には能登の里山里海が先進国初の世界農業遺産認定を受け、2015年には「生物文化多様性圏-いしかわ金沢モデル」を提唱しました。さまざまなステークホルダーの連携の推進のため、OUIKでは特にどのような活動に力を入れているのですか?
能登の里山里海が世界農業遺産に認定された経緯には、豊かな自然があったことと、人の営みである地域の農耕文化が自然資源の 保全にも貢献しているという側面が認められたためです。この維持のためには、環境保全活動だけでなく、農業従事者、消費者、教育、観光など様々なセクターの関係者が、里山里海の価値を共有する必要があります。また石川県には能登半島の世界農業遺産だけでなく、県南部の白山麓地域もユネスコエコパークに認定されています。このような 地域の自然や文化を保全、活用する国際認証制度は、地域の価値共有のための大変有効なプラットフォームとして機能します。OUIKは地域の国際機関として、この国際認証制度を最大限に利用するため、地域内外の学び合いを推進しています。この学び合いのプロセスは途上国や国内の他の地域も含まれています。
世界農業遺産のしくみを
学びに来たマレーシアサバ州の関係者
SDGsの推進にも力をいれていらっしゃいます。地域と国際社会を結びつけ、活動を推進するためにSDGsを伝える上でどのような点を工夫していますか?
国際的な話題は横文字が多く難解になりがちです。OUIKは能登半島突端にある人口1万5千人の珠洲市のSDGs未来都市活動にも参画しています。SDGsが大切にしている観点は5P(People人間、Peace平和、Planet地球、繁栄Prosperity、Partnership パートナーシップ)という言葉で表現されていますが、珠洲市の方々との議論を通じて、SDGsを表現する「あいうえお」を考えました。
あ 明日のために
(2030年が目標達成の年)
い 今を変えよう
(1人1人が出来ることから)
う 宇宙の視点と暮らしの視点で
(地球規模の課題と暮らしは繋がっている)
え 笑顔あふれる未来社会
(1人1人の幸せのために)
お 多くの参加で実現しようSDGs
(多様な意見や価値観が必要)
サステイナビリティの推進にこれから取り組んでいこうという地域が、「いしかわ金沢モデル」から参考にできそうなことについてお知らせください。
持続可能な地域の構築のためには、経済、社会、環境の視点が統合される必要があります。このためにはお互いの視点について学びあい、新しい価値創造からイノベーションが生まれなければなりません。この学び合いを推進するプラットフォーム機能、調整機能がもっと高く評価されるべきだと思います。行政で言えば、各部署や各省庁ごとに予算が配分されるわけですが、その予算の多寡で実績を競うのではなく、いかに多部署と連携できたか、いかに多部署にインプットできたかを評価できるしくみがあれば、事業の重複や縦割り解消になるかもしれないですね。
永井 三岐子
国連大学サステイナビリティ高等研究所 いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニット 事務局長
上智大学仏語学科卒業。政策研究大学院大学修士(国際開発)。
JICAモンゴル事務所企画調査員、地球環境パートナーシッププラザ(GEOC)でコミュニティの適応策研究、JICA-JST水分野の気 候変動適応策立案・実施支援システム構築プロジェクトコーディネーター(タイ)など一貫して、環境分野での国際協力業務に従事。2014年より国連大学サステナイビリティ高等研究所いしかわ・かなざわオペレーティング・ユニットにて研究と政策の統合を軸に事務局長として全体のマネージメントに携わる。金沢市出身。