サステナビリティCSOフォーラム

HOME > コラム寄稿 > サステナビリティ紀行 -生物多様性条約・愛知ターゲット達成を目指す国内活動の推進-

サステナビリティ紀行 -生物多様性条約・愛知ターゲット達成を目指す国内活動の推進-
2015/05/27


SDGsの17の目標の多くに関連していると言われる「生物多様性」。生物多様性保全については、生物多様性条約の第十回締約国会議(CBD-COP10)で「愛知目標・生物多様性政略計画2011-2020(愛知目標)」が採択され、取り組みが進んでいます。

愛知目標は20項目もあり、カバー領域は広範に渡りますが、愛知目標の達成に向けて「にじゅうまるプロジェクト」を立ち上げ、国内の主要なセクターによる活動の推進を目指しているのが、IUCN(国際自然保護連合)日本委員会です。今回はIUCN日本委員会事務局の道家哲平さんにお話を伺いします。

(語り手:IUCN日本委員会事務局 道家哲平さん)

2015年の国連生物多様性の日のテーマは「持続可能な開発のための生物多様性」とでした。SDGsと生物多様性にはどのようなつながりがあるのでしょうか。

ecoservice
生物多様性がもたらす自然の恵み:
生物多様性は暮らしを支える基盤
(にじゅうまるプロジェクト冊子より)

持続可能な開発を実現するための大前提となるものが生物多様性と捉えてもらいたいと思います。FAO(国連食糧農業機関)によると、ハチなどの花粉を媒介する生物によって、世界の食糧生産の75%が支えられているといわれています。これらの生物は、単独で生きているわけではなく、その土地の地形風土、植物や動物の複雑な関係性(=生物多様性)なしには生存できません。生態系や生態系サービスを生み出す“生物種”という視点で世界を見てみると、IUCNのレッドリストが76,199種調査したところ、懸念が低い(Least Concern)と評価されたのは34,934(全体の45%)。生存に問題がないという種は、半分にも満たないのです。

生物多様性条約で決定されたことは、国内の政策と具体的にどのように関連しているのでしょうか。また、愛知目標の実施に向けて、国内ではどのような動きがありますか。

生物多様性条約で決定されたことについて、政府内では、国内立法措置や政策上の運用、あるいは国際協力等に活かされています。生物多様性条約の外来種に関するガイドラインをもとに「特定外来生物法」が立法されたことなどは、その端的な事例といえるでしょう。愛知目標の実施については、その目標が多岐に渡ることから、政府のみならず、企業や地方自治体、市民、第一次産業従事者など幅広い分野で取り組む必要性があるとし、環境省が事務局を務める「国連生物多様性の10年日本委員会(UNDB-J)」が設立されています。
UNDB-Jの取り組みを強くサポートし(時に、牽引する)民間側の動きが「IUCN-Jにじゅうまるプロジェクト」です。愛知目標達成に取り組むことを市民・企業・自治体が宣言することを進め、ネットワークを作る取り組みで、2015年5月の時点で、231団体が308の取り組みが宣言されています。

目標の達成のために、どのような団体・人の参画が必要と考えていますか。こういった人たちと連携しアクションを起こすための施策として成果を上げているものや、今後の課題についてお聞かせください。

aichitarget
愛知ターゲットとは:
愛知ターゲットについて分かりやすく伝えるために
作成されたイラスト(にじゅうまるプ ロジェクト冊子より)

目標達成のためには、「コミュニケーション・教育・普及啓発」に関する専門家・団体が重要だと思っています。生物多様性の劣化を食い止め、良い方向に変えていくことは、“(認識なく)生物多様性を劣化させている多くの社会制度や人”を変えるということです。問題であることを知ってもらうだけでは人の行動は変わりません。これまで生物多様性という分野は比較的野生生物の世界を見てきた傾向が高かったのですが、それと同じくらい真剣に人間を観察し、取り組みを進めていくことが大事でしょう。

今後の課題は、2020年をどのように迎えるかという戦略を描くことです。SDGsも2030年が目標年と聞いています。全てが目標年に解決することはないので、プロセスの中で、大事な年をどのように迎え、次につなげるかという出口戦略的なものを考えないと、運動論から見たときに尻すぼみという結果になります。

国際自然保護連合日本委員会では、4年に1回開催されるネイチャーオリンピックとも呼ばれ世界中から1万人も集まる「IUCN世界自然保護会議」を、2020年日本で開催し、政府自治体・市民・企業・研究者が愛知目標の集大成と次につながるアクションを作り出す場を創出したいと考えています。

参考:にじゅうまるプロジェクト

iucnj_dohke道家哲平(どうけ てっぺい)
IUCN-J事務局長 生物多様性条約のNGOにおける第一人者。国際的な情報収集・分析を行い、日本の生物多様性保全の底上げに取り組んでいる。2010年愛知県で開催された生物多様性条約第10回締約国会議(COP10)では、NGOグループの全体運営を行い、COP12では「UNDBの日」のプログラムディレクターを務めた。国内では、2020年までに日本から愛知ターゲットの達成を目指し、企業や団体、自治体など多分野のセクターのネットワーク化を行いながら、地域や企業の生物多様性戦略、「にじゅうまるプロジェクト」、UNDB-Jなどの生物多様性保全事業を推進している。