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[サステナビリティ紀行 ]ー公害の教訓を持続可能な地域づくりにいかす
2015/07/28

1972年、スウェーデンのストックホルムで開催された国際連合人間環境会議(ストックホルム会議)で、環境問題が初めて国際的に議論されました。この会議には、日本から水俣病患者が参加し、公害問題の悲惨さを世界の人たちに伝えたことでも知られています。

それから40年以上たった現在もなお、公害問題は、世界各地で起こり続けており、SDGsでも目標3(健康と福利)や目標6(水と衛生)、目標14(海洋)において公害(pollution)が言及されています。

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第2回公害資料館連携フォーラムin富山
(富山県立イタイイタイ病資料館)

私たちは、公害の教訓をどのように未来へとつないでいけるでしょうか。公害教育の普及活動に携わる、公益財団法人公害地域再生センターの林美帆さんにお話を伺いました。

(語り手:公益財団法人公害地域再生センター(あおぞら財団)研究員 林美帆さん)

日本において、公害問題の教訓はどのように伝えられているのでしょうか。できている点と十分でない点など、学校や地域での学びの実態について教えてください。

あおぞら財団で仕事を始めるまで、私は大阪が公害指定地域であることを知りませんでした。もちろん、東京や愛知が大気汚染の公害病の指定地域ということもです。
4大公害裁判の名前は知っていますが、実態や現状は知らなかったのです。ですから、大多数の人がそのような状態であることは、想像に難くありません。

1990年代に公害裁判が和解していく過程で、公立もしくは民間の公害資料館が建設され、公害の被害があった地域では公害教育が続けられています。熊本県では小学生が水俣病資料館に見学に行くことが義務付けられています。
公立資料館の波及力は大きいのですが、県立や市立の施策はその地域内に限定されており、地域固有の取り組みに留まっていることが課題です。

私は民間の資料館(西淀川・公害と環境資料館)に勤務していますが、公害を学ぶ要望は一般的には高くありません。このような状況で、公害問題の教訓が後世に伝わっているとは言い難いのが現状です。

公害資料館が連携して公害問題を次世代に伝えていくことに、どんな効果が期待されていますか。その上で、どのようなパートナーシップが必要になるでしょうか。

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イタイイタイ病の原因となったカドミウム汚染田の
復元現場フィールドワーク

公害を教訓や教育として展開していく場合、地域性の尊重はもちろんですが、全国的な動きを理解することも必要です。
政治や経済の動きの中で公害がなぜ起こり、対策が取られ、現在に残された課題は何かを見つめる視点が必要なのです。そのためには、公害教育を担う人たちの全国的な交流が必要です。

公害資料館の特徴として、公立と民間という、違う立場に立った人が同じ「公害を伝える」ことを目的としていることがあげられます。
立ち位置が違うために伝えるメッセージにも違いがありますが、このように、立ち位置の違いを踏まえて交流することによって「公害を伝える」ことの意義が明らかになってくると言えるでしょう。

これまでは、立場の違う人たちがフラットな関係で交流・協働する場面がありませんでした。この関係性の中に研究者も入ることで、公害資料館のビジョンを作ることができる。ビジョンができれば、県や国にも意見を出して働き掛けることが可能となります。そのために、パートナーシップ・協働が必要なのです。

SDGsでは2030年にむけた持続可能な社会をつくるための目標が記されています。公害のない社会をつくるために、地域に、そして世界に、どのようなアクションや発信をしていけるでしょうか。

公害の解決に「技術」が必要と考えている人は多いと思いますが、技術革新を促したのは、市民の声です。市民が公害のない環境で暮らしたいと声をあげたことで、環境基準が整備され、汚染の規制や技術革新が進みます。
技術革新の発端となる市民力が、持続可能な社会を作るためのポイントと言えるでしょう。公害の教訓が被害の悲惨さだけにとどまらず、市民力の育成につながるように、公害資料館のビジョンを作っていきたいと希望しています。

hayashi03林美帆 (はやし みほ)
公益財団法人公害地域再生センター(あおぞら財団)研究員。博士(文学)
学生のころから西淀川公害訴訟の資料整理に携わり、大学院在学中に資料館設立のためにあおぞら財団の職員に。資料の電子化・公開や、公害地域の今を伝えるスタディツアーの実施など、公害を伝えることの模索を続けている。共編著『西淀川公害の40年』(ミネルヴァ書房、2013)など