[サステナビリティ紀行]ー地域の力診断ツール作成に向けて
2015/09/26
今後、多くの自治体が過疎高齢化の課題に直面し、存続の危機に瀕すると言われています。活力漲る地域をつくるために、どのような視点からアプローチしていけばよいのでしょう。国内各地の視察等から得た知見を元に「地域の力診断ツール」を作成している一般財団法人CSOネットワークの黒田かをりさんに伺います。
(語り手:一般財団法人 CSOネットワーク事務局長・理事 黒田かをりさん)
地域の力診断ツールを作成しようと思った理由とその目的をお聞かせください。
2011年3月の東日本大震災、津波、原発事故のあと、私たちは、福島県の酪農復興の事業に関わりました。その関連で、有機農業が盛んな二本松市東和地区にも足を運ぶようになりました。東和地区も大きな影響を受けましたが、いち早く地域の活力を取り戻し、新規のワイン会社が立ち上がり、農家民宿が増え、都市との交流事業が活性化するなど、震災前に戻るのではなく、新たな挑戦を次々と行ってきました。
私たちは、福島県だけでなく、岩手県、宮城県、山形県そして島根県でさまざまな課題に前向きに取り組む地域を訪れました。次第に地域の力とは何だろうと思うに至り、地域の力診断ツールを作成することになりました。
診断ツールは、その地域の持続可能な力を、その地域に住む人々自らが主体となって診断するためのツールです。その診断を通じて、地域の現状を把握し、新たな取り組みへとつなげていただくことを目的としています。過疎化、高齢化、持続可能な第一次産業の推進、自然環境の保全、地域の経済循環などの地域の課題に対して、住民主体の取り組みによる地域づくりをおこなっている地域、これからおこなおうとしている地域で、主に住民主体の地域づくりに取り組んでいる方々に使っていただきたいと考えています。
具体的な診断項目は、どのようなものになる予定ですか。
診断ツールでは、その地域が、6つの資本をそれぞれどの程度持っているかをチェックします。
6つの資本とは、
「地域の人々による参画と協力(社会関係資本)」
「地域の中の経済循環(経済・金融資本)」
「自然との共生(自然資本)」
「人々の豊かな暮らしと生活(人的資本)」
「暮らしを支える公共施設(物的資本)」
「文化・伝統の保全と継承(文化資本)」です。
それぞれの資本には3~5の分野があり、10の指標があります。それらの指標に対する評価に、地域に対する主観的な満足度(幸福度)を加えて、レーダーチャートにまとめることで、視覚的にわかりやすく地域の現状を把握します。
今後、診断ツールを使ってどのような活動を展開していく予定でしょうか。つながりたい/働きかけたい団体・人などについても含めて、展望をお聞かせください。
診断ツールはまだ作成途中です。今年度中にこのツールを使って二本松市東和町と富山県黒部町でワークショップをする予定です。地域の皆さんからご意見やコメントをいただき、更に改良を加えていきます。また評価や地域づくりの専門家など、さまざまな角度からも批評やご意見をいただき最終版にしたいと考えています。
今後は、診断ツールを広めて、できるだけいろいろな地域の方に使っていただきたいと思います。最終版は英語に翻訳する予定ですので、おつきあいのある海外の地域にも紹介したいと思っています。また「持続可能な開発のための2030アジェンダ」達成に向けた地域の取り組みにもつなげていけたらよいと思っています。
黒田かをり(くろだ かをり) 一般財団法人 CSOネットワーク 事務局長・理事
民間企業、コロンビア大学経営大学院日本経済経営研究所、アジア財団日本事務所の勤務を経て、2004 年よりCSOネットワークに勤務。活動分野は、①社会的責任・サステナビリティ推進、②ポスト2015に関する事業、③地域主体の持続可能な社会づくり。近著に『放射能に克つ 農の営み―ふくしまから希望の復興へ』(共著)2012年コモンズ、東日本大震災とNPO・ボランティアー市民の力はいかにして立ち現れたかー(共著)2013年ミネルヴァ書房ほか。