[サステナビリティ紀行]気候変動へのアクションを!
2016/03/16
2015年12月のCOP21(気候変動枠組条約第21回締約国会議)で、京都議定書後以来18年ぶりとなる新たな枠組「パリ協定」が採択されました。途上国を含むすべての国が協調して取り組むこと、気温上昇を産業革命前に比べ1.5度に抑える努力をすることなどを盛り込んだ「歴史的な合意」とも評価されていますが、気候変動を食い止めるために、今後どのようなパートナーシップやアクションが必要なのでしょう。
気候変動に取り組む日本のNGOネットワーク、CANジャパンに所属する、FoEジャパンの小野寺ゆうりさんに伺いました。
(語り手:FoEジャパン 小野寺ゆうりさん)
気候変動に取り組む世界の人たちの間で「Climate Justice(気候ジャスティス・気候の公平性」という言葉をよく耳にします。日本ではあまり聞かない言葉ですが、ここにはどんな意味が込められているのでしょうか。
昨年の世界の平均気温は産業革命の頃に比べ既に1℃も上がっています。気候変動の影響は世界中で顕著になっており、洪水やスーパー台風、長期間続く干ばつなどの異常気象でとりわけ社会インフラの弱い途上国や一次産業生計者、貧困層を直撃しています。気候変動を引き起こしてきたわけではないこれらの人々が、その犠牲となっているという不正の図式を外して気候変動の問題を考えることはできません。膨大な化石燃料を燃やして今日の富を築いた先進国には歴史的な責任があります。
気候変動やそれにともなう災害が、先進国の繁栄を支える今日の世界経済体制のもとでの南北の格差や貧困、不正という負の構図をさらに加速させ悪化させる、計り知れない影響を与えるものであることが、国連科学者機関などの報告で明らかになっています。 従来の環境団体の枠を超えて 、それぞれの国や国際的に社会的不平等、開発と貧困、人権、災害援助などの問題で活動してきた世界の様々な市民、団体、機関が連帯し、社会正義の視点から気候変動を考える気候ジャスティスの運動が生まれました。
気候変動の科学、国家間での歴史的責任と能力に基づく温室効果ガス削減量の公平な負担を求めるのは気候ジャスティスのひとつの則面です。アメリカ国内やヨーロッパ、多くの途上国で長年市民運動が直面している環境ジャスティス(経済社会的弱者にしわ寄せされる環境汚染の不正)ともとは同じで、気候変動で影響を受ける何億もの人々、とりわけ貧困層、女性や子供、先住・少数民族などの経済的社会的弱者やアフリカへの不正を正し、加害者責任と被害者の人権他権利の尊重と救済をもとめています。温室効果ガス削減に拘る環境団体の限界を超えて、世界の開発、災害人道支援、反戦、人権擁護、宗教、女性の権利、保険、先住民族からシェールガス反対、反核脱原発まで幅広い社会的不正を質す運動が結集し連携したのが気候ジャスティスと言えます。(参考: http://peoplestestonclimate.org/)
SDGsとパリ協定はどのように関係しますか?SDGsは気候変動問題の解決にどのような影響をもたらすでしょうか。
気候変動問題はその目標13だけでなくSDGの文書の全般19箇所で言及されています。持続可能な開発サイドでは飢餓や食料安全保障、安全な居住と防災、またジェンダー平等や保健、持続可能な水資源管理からエネルギー・アクセスまで、気候変動問題との関わりが認識されています。一方パリ協定は持続可能な開発や貧困、人権などに前文で触れていますが、実効性ある内容のつながりは協定側からは全くありません。
92年国連気候変動条約は歴史的責任に基づく対策の枠組みであり、その原則を継承した京都議定書は気候変動で市場メカニズムを取り入れた最初の条約ではありますが、条約の原則で先進国に国別総排出量枠を課すものであったことからアメリカは拒否しました。
パリ協定がひとつ「歴史的」と言えるのは、国連の役割を、先進国が行動する義務を負う前記の92年体制から、全ての国が自国で行うことを報告し集約・評価するモニタリング機関へと置き換えたことです。歴史的的責任を果たしたと主張する先進国の公的資金主体の国際支援を限定し、新自由経済主義を全面的に取り入れた炭素市場制度を国際対策の柱とし、国際的に展開することになりました。大口排出国の利害優先で既存の国際経済体制の枠組みを温存するパリ協定が、大胆な政策転換や社会変革が必要な気候変動抑止にどれほど実効性があるかは未知数です。
パリ協定は温室効果ガス排出量管理が主眼であり、気候変動の幅広い影響に対処する科学や情報、ノウハウの集約点にはなりますが、影響への対策や実施機能は意図的かつ極めて限定されています。協定単独では、大規模な被害対策や、気候変動問題の元々の原因である今のエネルギーのあり方や社会変革を促すものではありません。大規模な化石燃料開発とそれに依存する今の国際経済体制や経済利害(また歴史的責任)の観点で、パリ協定の議論はSDGsの議論から完全に切り離して議論されました。パリ協定では、到底「我々の世界を変革する」(Transforming Our World)には至りません。市民社会や政府が包括的なSDGsのような文脈でパリ協定の実施を見守り検証・評価することは、協定がもたらす負の側面を抑えるという面からも極めて重要だと考えています。
気候変動問題解決のため、日本人はどのような役割やリーダーシップを果たしうるでしょうか。
まずは、日本人にまだ知られていない気候ジャスティスや、環境不正と闘う無数の世界の市民や運動のことについて知っていただきたいと思います。また日本の技術や巨額の公的資金援助、政府が誘導する巨大資本による内外での気候変動対策は既存の社会構造を温存し、しばしば負の側面を伴うものでもあります。例として政府が国内外で推進する高効率石炭火力や原子力がまず浮かびます。超保守的な日本人の大規模集中集約型のエネルギー産業、経済、技術の考え方から、脱原発、分散型エネルギー、SDGなどあらゆるツールを使い、分散型で人間性ある社会へと作り変えることは容易なことではありません。こういった国内での取り組みを海外と共有してゆくことも貢献だと思います。
(写真はすべて、COP21パリ会議最終日に非常事態宣言下のパリで世界から集まった数千人のCSOメンバーによる気候ジャスティスを求める同時アクションの様子)
小野寺ゆうり (おのでら ゆうり)
フリーランス写真コラムニストから1992年にFoEJapan(当時団体名「地球の友」)正式職員となる。リオ地球サミット、熱帯林保護、ラムサール条約、世銀・IMF関係の活動に携わり97年国連気候変動・京都会議前から気候変動問題担当で今日に至る。Climate Action Network International 理事(1期) 、FoE International 理事(2期)を務め、現在は認定NPO法人FoEJapanでプログラム顧問、及びCAN Japan 理事。