[サステナビリティ紀行]砂漠化からSDGsを考える
2017/09/29
9月6日~16日、中国で砂漠化対処条約(CCD)の第13回締約国会議(COP13)が開催されました。砂漠というと日本にはあまり関係がないように思われがちですが、実は私たちにも、そしてSDGsの達成にも重大な意味を持っています。今回は、横浜国立大学の小林正典さんにお話を伺いました。
砂漠化対処条約とはどのような条約ですか。
ハイレベル全体会合の様子
国連砂漠化対処条約(United Nations Convention to Combat Desertification)は1992年にリオデジャネイロで開催された地球サミットで策定が提言されたことに端を発します。翌年、交渉会議が開始され、条約は1994年に採択され、1996年に発効しました。
正式な条約名は、「深刻な干ばつ又は砂漠化に直面する国(特にアフリカの国)において砂漠化に対処するための国際連合条約」で、気候変動枠組み条約や生物多様性条約と並んで地球環境問題を取り扱う重要な条約です。
木や草が育たなくなることを一般的には土地荒廃と言っていますが、雨がわずかしか降らない乾燥地の土地荒廃を砂漠化と呼んでいます。水不足、いわゆる、干ばつが長引くと、農作物や牧草が育たなくなり、枯れてしまいます。
また、焼き畑農業やヤギや羊を密集して放牧する過放牧などに繰り返すことで、草が再生しなくなり、やがて土が露出する荒れ地になってしまいます。干ばつの長期化させる気候変動や過放牧のような収奪的な土地利用により、土地が植生を失い、植物を再生産できなくなることで裸地化する土地が広がるという砂漠化が世界各地で問題となっています。
砂漠化は、1980年代以降にその影響が国際的に懸念されるようになりました。砂漠化の問題を地球規模の問題として国際社会が協力して取り組んでいくために、国連砂漠化対処条約が作られました。世界各国が砂漠化の防止に取り組み、国際協力を進めていくことを国際的に約束したものがこの国連砂漠化対処条約です。
砂漠化は日本にどのような関係があるのでしょうか。
湿潤である日本にとって砂漠化は無縁と考えられがちです。しかし、日本もかつては栃木県の足尾銅山の周辺の山は木々が伐採され、山肌を露わにし、また、北海道の襟裳岬では沿岸の土壌が海岸に流入して昆布が壊滅していた例がありましたが、その後、植林により以前の生態系を取り戻した例があります。オーストラリアで干ばつが起こった時には、小麦価格の上昇により、日本国内の麺製品が値上がりしたことがありました。
春先に飛来する黄砂も砂漠化の影響です。そして、近年指摘されているのが、砂漠化と治安悪化の関係です。乾燥地で農業や遊牧ができなくなった貧困民が、少額の現金収入を得るために武力集団に参加し、世界の政情不安の一因となっている点です。砂漠化を防止し、人々が持続可能な農業や遊牧をできるように協力することが、長い目で日本をはじめとする国際社会の利益と考えられているのです。
今回開催されたCOP13の会合では、Land & SDGs(土地とSDGs)という議題があったと伺いました。どのようなことが話し合われたのでしょうか。
フィールドトリップの様子
2015年の国連サミットで採択されたSDGsでは、その目標15.3で、2030年までに土地荒廃が世界的に荒廃した土地と緑化された土地を差し引きしてゼロになるという「土地荒廃中立性」を実現する目標を打ち立てています。
この土地荒廃中立性を判断する基準として、植物に覆われている度合いである被緑率、植物の生育度を示す土地の生産性、さらには土壌が含む炭素量を利用することが合意され、今回のCOP13で採択された2030年までの条約実施戦略枠組みで有効な施策を実施していくことが合意されました。
また、今回のCOP13では、合計113カ国が土地中立性の目標設定を進めるプログラムへの参加を表明し、世界的な政策目標を各国が実施していく道筋が明らかにされました。
この他、COP13の期間中に、土地中立性基金(LDN Fund)の設立と3億ドル(約330億円)の資金調達目標が発表されています。この基金は、パリに本社を置くミロバという資金管理会社が運営しており、乾燥地や荒廃地で農業と植林を行うようないわゆるアグロフォレストリーといった事業などへの民間投資の促進を目指しています。
この条約との関係で、日本の私たちはどのようなことができるでしょうか。パートナーシップの観点から、期待や提案などがあればお願いします。
地球温暖化や生物多様性の損失などと砂漠化問題はつながっています。このことを理解し、食い止めるための活動への参加や協力をお願いしたいです。企業や行政、市民の連携によってその活動が広がることを期待しています。
小林正典(こばやしまさのり)
千葉大学法経学部(法学士)、国際基督教大学大学院(教養修士)、ジョージア大学法律大学院(法学修士)修了。国連日本政府代表部経済班専門調査員、国連本部持続可能な開発部持続可能な開発専門員、国連砂漠化対処条約事務局アジア地域部プログラム担当官、(財)地球環境戦略研究機関等を経て、現在、横浜国立大学フェロー、笹川平和財団主任研究員。