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[サステナビリティ紀行]新型コロナウィルス感染に対応するNGOの動き
2020/05/12


新型コロナウィルス感染の世界的な広まりが各地で人々の不安が募っていますが、これに対応しようと、市民社会でもさまざまな動きが出ています。感染症予防のNGOに関わり、またSDGs市民社会ネットワークでも活躍されている長島美紀さんにお話を伺いました。

質問1:長島さんの所属する団体と、今回の新型コロナウィルス感染症への対応についてご紹介ください。

第2回ポスト2020作業部会
薬剤浸漬蚊帳(ITNs)の中で寝る子ども。
撮影地:インド(2018年) © Sephi Bergerson

私は認定NPO法人マラリア・ノーモア・ジャパンという、日本で唯一マラリアに特化したNPOの理事をしています。新型コロナウィルスのパンデミック状況に対し、日本事務所では4月に声明文を発表、また世界マラリアデーにあたる4月25日にはマラリア・ノーモアUSでは、WHOによる新型コロナウィルスのマラリア流行への影響の予測に対するメッセージを発信、今こそマラリアをはじめ計画通りの感染症対策を実施すべきだと各国政府・国際機関へ呼びかけています。

質問2:新型コロナウィルス感染症については、いくつもの団体が、声明文や提言文を出されたようですが、その状況を教えてください。市民社会として事態をどのように捉え、訴えている内容はどのようなものでしょうか。

新型コロナウィルス感染症のパンデミック状況に対しては、国内外の市民社会組織や国際機関で声明を発信していますが、その多くが社会の分断や女性や子ども、高齢者、障がい者、移民難民など弱い立場に置かれやすい人への特別な措置と人権の尊重、紛争地域における人道支援の継続を訴えています。新型コロナウィルスは深刻な問題ですが、それによって社会が分断され、基本的な人権がないがしろにされることは許されるべきではありません。そうした課題に対し異議申し立てと救済の必要性を訴える動きが多く見受けられています。

質問3:今回のことをきっかけに、始まったことや、今後予測される動きについてはどのようにお考えでしょうか。SDGsは感染症対策にとって、どのように活用されるべきとお考えでしょうか。

各国で隔離政策がとられることで、すでに国境の分断や人権侵害、貧富拡大、教育へのアクセスの制約など多くの課題が生まれています。日本を含む医療先進国だけではなく、新興国・途上国の脆弱な保健システムを直撃することが懸念されています。2014年の西アフリカのエボラ出血熱の流行では、流行国での格差拡大と女性への性暴力の増加、教育からのドロップアウトという社会の基盤そのものが揺るぐこととなりました。新型コロナウィルスも同じような課題を世界規模で引き起こす可能性があります。SDGsは私たちに問題はひとつではなく、複数のSDGsの目標がクモの巣のように関係していることを示しました。私たちは新型コロナウィルスから派生する社会の様々な課題をSDGsの関係図をベースに組み立て、目の前の課題の背景にある要因や制度的課題、社会要因にも目を配り、より包括的な活動をする必要があります。

質問4:感染症対策のために必要なステークホルダー連携やパートナーシップについて、提案や期待していることがあればお聞かせください。

第2回ポスト2020作業部会
西アフリカ・セネガルでの蚊帳配布事業の様子。
©Malaria No More Japan

4月23日に、世界保健機関(WHO)は、世界全体のマラリア感染者の大半を占めるサブサハラアフリカで、COVID-19パンデミックによって、蚊帳の配布が停止し、抗マラリア薬の入手機会が75%減少する事態に陥った場合、マラリアによる死者は推定76万9000人に上るという推計を発表しました。これは2018年の世界全体のマラリアによる死者数より30万人以上多い数字です。この発表に呼応してマラリア・ノーモアでは、多くの国が雨期に入る6月前に蚊帳やマラリア予防、診断、治療に必要な備品を計画通り配備する必要性と、パンデミックに最前線で対応することになるヘルスワーカーが、安全に必要なマラリアに関する治療を行えるようにトレーニングと防御服を支給すべきと声明を発表しました。保健システムの維持には、政府だけではなく資金拠出の国際機関、事業実施をするNGO、備品を供給する企業、そして地域住民の意識と共有、そして相互扶助の精神が必要です。現在のパンデミック状況から、私たちは改めて連携促進を強化し、感染症の再発を含めた未来の事態に備える社会づくりを進める必要があると考えています。

*参考として下記の記事をご紹介します
マラリア・ノーモア・ジャパン声明
マラリア・ノーモアUS声明


長島美紀プロフィール:長島美紀
認定NPO法人Malaria No More Japan理事

大学で研究の傍らアフリカ支援に携わったことを契機に、様々な団体の広報事業を経験。団体ではコミュニケーション事業を担当するほか、2017年からは「ZEROマラリア2030キャンペーン」を運営する。