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[サステナビリティ紀行]国連“家族農業の10年”で世界の食卓と農業を守る
2020/09/16


持続可能な農と食のあり方を実現するために、国連は「家族農業の10 年」(2019~2028年)を設置しました。多くの食料を海外からの輸入に頼り、農業や農村に関する課題を抱える日本においても、この取組みは重要です。この取組みに特化した団体を立ち上げ活動している家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン(FFPJ)常務理事の関根佳恵さんに伺いました。

質問1:FFPJの設立趣旨と主な活動についてご紹介ください。

FFPJは、国連「家族農業の10年」の趣旨に賛同した日本の関係者(農林漁業関係者、消費者、市民、研究者等)が、2019年6月に市民組織として設立しました。国連機関(FAO)や国際NGO(世界農村フォーラム)等と連携しながら、農と食のあり方を変えて新しい持続可能な社会をつくるための活動をしています。具体的には、シンポジウムや学習会の開催、出版事業、日本政府(主に農林水産省)への政策提言と対話、国内外の動向に関する情報発信(ウェブサイト、SNS、マスメディア等)などを行っています。

質問2:家族農業の特徴や課題について教えてください。この取組みを広げるために政府や農林漁業関係者へどのような提言や対話をしていますか。消費者や市民社会に向けてはどのようなメッセージを発信していますか。

国連は家族農業を「家族労働力を主体とする農林水産業」と定義しています。家族農業は世界の農場数の9割を占め、食料の8割を供給しており、資源エネルギー効率性が高いことも分かってきました。そのためSDGsに貢献する重要な主体ですが、十分な支援がないために潜在力を発揮できていません。実際、世界の貧困人口の8割が農村で農業を営んでいます。日本でも家族農業は全体の97%を占めますが、積極的な政策支援の対象ではありません。しかし、コロナ禍で家族農業は高い強靭性(レジリエンス)を発揮しました。国際的に再評価される家族農業の役割と支援の必要性を日本政府、農林漁業関係者、消費者、市民社会に向けて発信しています。

FFPJ設立記念フォーラム_中央はFAO駐日連絡事務ボリコ所長とFFPJ村上代表_2019年6月14日

質問3:SDGsは企業の関心が高く、また自治体でも取組みが始まっているので、家族農業の10年とSDGsに関する取組が連動して盛り上がりを持たせられたらと思います。具体的にどのようなことを伝えたり、行ったらよいとお考えでしょうか。

コロナ禍で食料のグローバル・サプライチェーンは寸断され、農産物の輸出規制も行われました。マスクや人工呼吸器と同様に、命をつなぐ食料も国内で生産する必要性を多くの人が再認識しました。また、毎年のようにスーパー台風が日本列島を襲うようになり、気候危機への対応も急務です。IPCCの報告書(2019)によるとグローバルな農と食のシステムが温室効果ガスの21~37%を排出しています。私たちは今のシステムを見直し、環境にも社会にも優しいシステム(アグロエコロジー)への転換を急がなくてはなりません。地域で流域ごとに食料自給圏を構築していくことは、その具体的な方向性です。すでに欧州では改革がはじまっています。変革の一歩として、全世代への食農教育も重要だと思います。

質問4:この10年キャンペーンを成功させるために、ステークホルダー連携やパートナーシップについて提案や期待していることがあればお聞かせください。

国連はマルチステークホルダーの対話の場「プラットフォーム」の設立を各国に提案しています。FFPJはそのプラットフォームとして設立されました。農林漁業関係者、消費者、市民、行政、研究者等のそれぞれの視点や専門性にもとづく意見を集約して、政策提言に結びつけたいと思います。特に、国連「家族農業の10年」では10年間の行動計画を各国政府が策定することになっています。日本でも参加型の行動計画策定に向けて、FFPJは幅広いステークホルダーの意見を募集するためにアンケートを実施しています。ぜひ皆さんのご意見をお寄せください!よろしくお願いいたします。

※参考サイト
家族農林漁業プラットフォーム・ジャパンのウェブサイト:https://www.ffpj.org/
※関連書籍:
●農民運動全国連合会編著『国連家族農業10年―コロナで深まる食と農の危機を乗り越える』かもがわ出版、2020年
●小規模・家族農業ネットワーク・ジャパン編『よくわかる国連「家族農業の10年」と「小農の権利宣言」』農文協、2019年
●国連世界食料保障委員会専門家ハイレベル・パネル『家族農業が世界の未来を拓く』農文協、2014年


関根佳恵プロフィール:関根佳恵(せきねかえ)
家族農林漁業プラットフォーム・ジャパン常務理事/ 2011年京都大学大学院博士課程修了。博士(経済学)。2013年に小規模農業に関する国連報告書を執筆。2016年より愛知学院大学准教授。2018年は国連食糧農業機関(FAO)の客員研究員。