[サステナビリティ紀行]ISO26000、策定から10周年
組織の“社会的責任(SR)”の観点から持続可能な社会づくりを目指す
2020/11/24
ISO26000はISO(国際標準化機構)が2010年11月1日に発行した、組織の社会的責任に関する国際規格です。ISO26000の開発にあたってはISO規格としては初めて“マルチステークホルダープロセス”がとられ、幅広いセクターの代表が議論に参加しました。この動きに長く関わってこられた日本ILO協議会の熊谷謙一さんに最近の動向やSDGsとの関係など伺いました。
質問1:ISO26000に関わったきっかけは何でしょうか。貴団体の活動や関わる意義などについても教えてください。
私はトラック工場におりましたが、季節工や非正規の労働者が多い職場でリーダーに選出されたことが運動のきっかけです。その後、ILOのパート労働条約の審議で起草委員に指名された経験などから、ISO26000の日本の労働ステークホルダー代表となり、国際的な労働グループの議長も務めました。現在は日本ILO協議会の活動を通じて、日本とアジアにILOの理念と基準を普及する仕事をしています。ISO26000はILOの基本的条約をきちんと含んでおり、またILOはステークホルダーが参画する国際機関の「元祖」でもあることから、この規格が国際労働基準の前進に貢献してくれることを期待しています。また、ISO26000の国際委員会では持続可能な社会への貢献を原則とすることにリーダーシップを発揮したNGOの皆さんの情熱と行動に強い感銘を受けました。
質問2:発行から10年が経過しました。この規格が掲げる原則や中核主題について現時点でどう捉えていらっしゃいますでしょうか。国際的な動向についてもお知らせください。
ISO26000はマルチステークホルダー(消費者、政府、産業界、労働、NPO/NGO、サービス・専門家等)のしっかしりた論議とコンセンサスで形成されており、掲げている原則や中核主題は今後も十分通用するものと思います。ISO26000の「遺伝子」とも呼ばれるものですが、この10年間でそれが組み込まれた社会分野の規格形成が進みました。社会的責任調達(ISO20400)、メガスポーツ規格(ISO20121)などです。ほかにも新たなCSRが生まれ、あるいは進化しましたが、概ねISO26000の方向に沿っており、一つの標準として確立したことを感じています。そして、ISO26000がその原則の一つを持続可能な社会への貢献としたことは、今日、SDGsがひろく受け入れられるベースになったものと思います。
質問3:SDGsでもパートナーシップを重視しており、ステークホルダー連携が進むことが期待されています。SDGs達成のためにISO26000は今後どのように役割を果たせるとお考えでしょうか。
2015年秋の国連でのSDG採択を受けて、ISOは2016年、「ISO26000とSDGsのリンケージドキュメント」を作成し、連携のための考え方とツールを示して、ユーザーに活用を呼びかけました。SDGsは、ISO26000が目標とする持続可能な社会の内容を具体的に示しており、草の根のSR/CSRとの「車の両輪」のような連携が望ましいと考えたからです。これはSDGsの上滑りを回避し、“ウオッシュ”に使われないための道でもあります。ILOは国際機関としてSDGsの策定に参加しておりますが、その実現は今から5年間(2020~2025年)が勝負と感じています。日本では「まだ5年ある」と捉えがちですが、国際的に5年は短期決戦です。見通しは不透明であり、世界のステークホルダーや関係者は、緊迫感を持ってこの5年間の活動に貢献する必要があると思います。
質問4:ISO26000を活用したステークホルダー連携やパートナーシップについて、提案や期待していることがあればお聞かせください。
ISO26000の発行以降、世界と日本でステークホルダの連携やパートナーシップが進みました。国際的にはISO26000国際委員会の後継組織としてGSN(グローバル・ステークホルダー・ネットワーク)が形成されています。日本国内ではステークホルダーによる円卓会議が設けられました。活動をさらに拡充して欧州のステークホルダー会議のレベルを目指していただければと思います。そして、現代の社会では、社会を支える生産やサービスの仕事を人間的で働きがいのあるものとすることがきわめて重要です。ステークホルダーの参加を労働分野を含むバランスあるものとし、しっかりした連携をすすめる必要があります。そのカギを握るものは、ISO26000策定を主導したNGO/NPOセクターの活動のさらなるパワーにあると思います。皆さんのご健闘を心から期待しています。
プロフィール:熊谷謙一(くまがい・けんいち)
日本ILO協議会企画委員、国際労働財団アドバイザー。
自動車工場勤務、労組支部で活動、のち連合に移り、非正規、ILO、CSRなど担当。国際労働財団タイ事務所役員。東京オリパラ調達コード委員。著書「アジアの労使関係と労働法」で労働ペンクラブ賞。政策研究フォーラム理事。埼玉大理学部卒、米国レイバーカレッジ(ワシントンDC)コース修了。