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[サステナビリティ紀行]NGOが切り拓く共存協力のグローバル・コモンズ
2022/03/10


SDGsの認知度も徐々に上がっている現在、地球規模の課題や、国内の地域社会の課題に向き合おうとする動きが多くなってきています。一方で、感染症や気候変動問題、各地で起こる紛争や人権侵害など予断を許さない状況が続いています。市民として何をすべきか、NGO・市民社会組織の役割はどうあるべきか、など再考することも重要ではないでしょうか。長年NGO活動に携わった実績によって最近「アーユスNGO大賞」を受賞された、ジュマ・ネット共同代表の下澤嶽さんにお話を伺いました。

質問1:これまで長くNGO活動に取り組んでこられましたが、事務局長をされていたJANICのようなネットワーク型の団体と、現在のような個別課題の団体の両方を経験されてみて、両方の特徴や役割など、ジュマネットの主な活動の紹介とともに教えてください。

私が長くかかわってきたNGOは、世界の絶対貧困や自然災害の被災者や紛争難民に苦しむ人々を国境を越えて支援する「開発NGO」です。80年代に日本社会でブレークして、2000年代くらいまで組織的に増加・拡大していきました。途上国の現場の人々の痛みを共有し、それを伝える役割を担う、「肌感覚」の強い活動です。数の増加にともない、NGOの主張やあり方を社会に訴えるネットワーク組織もつくられました。一方、開発NGOが国内の民族問題に関わることの限界を感じるようになりました。少数民族の政治的権利の課題は、国家にとって不都合な問題で、そこでの人権侵害を隠ぺいし、NGOへの活動を認めないことが多かったからです。そこでジュマ・ネットを立ち上げ、少数民族の政治的権利を模索する活動をするようになりました。

紛争で親を亡くしたりレイプ被害の児童の教育支援
紛争で親を亡くしたりレイプ被害の児童の教育支援

 

質問2: 現在のNGOの役割はいつからどのように変わってきているでしょうか。課題やこれから求められる役割などについてお考えをお聞かせください。また「脱NGOという挑戦」と題したご講演をされたそうですが、その内容などご紹介ください。

私は4つの重要な変化が地球社会で生まれていると感じています。まず絶対貧困の減少です。MDGsそしてSDGsが国連で提唱されて以後、絶対的貧困は確実に減少してきました。2つ目は、国家間の相互依存の深化です。国家間の経済依存関係はますます強まり、一つの国だけを見ていては、社会問題を理解・解決できない状況が生まれています。3つ目は、地球環境の限界です。大量生産・大量廃棄を生み出した20世紀のライフスタイルでは、もう地球が持続できない状態です。そして最後は、民族自決という民族意識を基盤とする政治スタイルの限界です。加害者と被害者が一体化した状況が生まれてきています。これまで開発NGOは絶対貧困問題の救済ストーリーを伝えることで存在意義を示してきましたが、これからは上記の4つの課題にグローバルな視点で答えていく必要があると思います。

 

質問3:SDGs達成につながるような活動のあり方について、考え方やご提案などお聞かせください。海外での平和構築や身近な環境問題への対応など、どのように伝えようとしていますか。

NGOはこれから被害者への対処的な活動に留まらず、民族主義を越えた、グローバル社会を描いていく必要があると思います。グローバル社会の新しい共同管理ルール、つまりグローバル・コモンズ形成に積極的に貢献する時代が来ています。「地球温暖化」「海洋プラスチック」「移民にやさしい社会」「経済格差の是正」「民族差別問題」など多くの課題に対して、グローバル・コモンズのルールづくりが求められています。そして活動の場所は、途上国だけでなく、自分たちの地域、国家間、国連など、さまざまなレイヤーの活動が横につながり、グローバル・コモンズにつながるように組み立てていく必要があるとおもいます。それを私は「共存協力」と言うようにしています。誰かを助ける活動から自らを助ける活動も意識するNGOになることをあえて「脱NGO」という言い方で表しました。

破壊された寺院の再建
破壊された寺院の再建
 

質問4:SDGs達成に向けたパートナーシップに関して、普段から思うことや団体で心掛けていることなどについて教えてください。

現場で真摯に人々に向き合う姿勢こそがこれまでのNGOの姿でした。これからは、グローバルなイメージで現場をみつめ直す視点と、民族間、国家間、NGO間をつなぎルールづくりの対話を生み出す力が求められると思います。

被害地域での聞き取り
被害地域での聞き取り
 

プロフィール:下澤嶽(しもさわ たかし)

下澤嶽大学卒業後、英国のCSV(Community Service Volunteers)の1年間ボランティアに参加。帰国後、日本青年奉仕協会、世田谷ボランティア協会を経て、1988年には(特活)シャプラニール=市民による海外協力の会の駐在としてバングラデシュへ。帰国後、1998年に同会事務局長。2002年7月に退職し、同時にジュマ・ネットを友人たちと設立。2006年7月から2010年3月まで(特活)国際協力NGOセンター事務局長。2010年4月より、静岡文化芸術大学教員。平和構築NGO ジュマ・ネット共同代表。著書「バングラデシュ、チッタゴン丘陵で何が起こっているか」(2012 ジュマ・ネット)、「開発NGOとパートナーシップ 南の自立と北の役割」(2007 コモンズ)等。