[サステナビリティ紀行]ハイレベル政治フォーラム(HLPF)2022レポート
2022/07/22
7/5から今年の国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)が2週間開催されました。コロナ対策が緩和され、3年ぶりに市民社会メンバーなど多様なステークホルダーも対面参加したそうです。今回、市民社会として参加したSDGs市民社会ネットワークの久保田将樹さんにお話を伺いました。
質問1:今年のHLPFの特徴はどのようなものですか。国際的な食糧危機に関する関心の高まりから、開会式では国連食糧農業機関(FAO)からの挨拶もあったそうですが、今年のテーマや特徴など教えてください。
HLPFとは、毎年7月に各国の代表が集まりSDGsの進捗状況を共有し、SDGs達成への行動の加速を働きかけるための閣僚級会合です。HLPFでは、4年ごとに開催される首脳級の「SDGサミット」に向けて、17の目標を4年かけて重点的に取り上げます。今年の重点とされた目標は、 4(教育)、5(ジェンダー)、14(海洋)、15(陸地)、17(パートナーシップ)でした。
いわゆる3C(気候危機:Climate、コロナ危機:Corona、ウクライナ危機:Conflict)などの影響で、貧困と格差は近年悪化していることがさまざまな報告書で明らかになっており、日本も同様です。貧困と格差という課題をSDGsの理念に基づきどう克服できるのか、「誰一人取り残さない」理念を実現するための次の行動について、SDGsの基盤である「人権」が特に強調されて議論されました。
(国連ハイレベル政治フォーラム(HLPF)開会)
質問2: サイドイベントや公式プログラムなどで注目している会合や、参加されたミーティングなどについて、概要や感想など教えてください。現地参加ならではの印象など、どのような感想を持たれましたか。
今年のHLPFは3年ぶりに対面参加が可能になりました。世界のCSO(市民社会組織)メンバーと対面でやりとりができ、多くの情報を得ることができたのと同時に、日本の市民社会の活動を広める貴重な機会となりました。
例えば食料システムに関する会合では、生産・加工・流通プロセスの人権課題や環境負荷、食料の不平等な配分などが取り上げられました。ウクライナ危機や自然災害の影響で、今後世界の食料事情は悪化することが懸念されています。食料を、誰が生産・加工し、流通・貿易し、販売し、消費しているのか。SDG 2(飢餓)と12(責任ある消費と生産)を中心に包括的な議論と十分な投資が必要だとされています。
(国連ハイレベル政治フォーラムの食糧に関する会合)
質問3:CSO(市民社会組織)ではどのような会合やミーティングがありましたか?注目すべきテーマや日本の市民社会にとって活動のヒントや参考になるような情報がありましたらご紹介ください。
CSOメンバーが集まる「CSO Day」というイベントが開催されました。印象的だったのは、気候やジェンダーといった課題は各国によって状況や対策が異なるものの、国や地域を超え、将来世代を含むすべての人々にとって「私たちの問題」であると認識し、課題解決のための行動と社会的意思決定プロセスへの参加を議論したことでした。
質問4:SDGs推進に向けたパートナーシップに関して、普段から思うことや団体で心掛けていることなどについて教えてください。
SDGsを定めた国連アジェンダの名称が「我々の世界を変革する」である意味を、私たちは本当に理解できているのか、問い続けることが大切だと考えています。私たちの世界の変革は、各セクターやステークホルダーが自分たちのあり方を変えるところから始まります。
HLPFの開会式で挨拶をしたチリからやってきた19歳の女性は、気候危機やコロナ危機、ウクライナ危機に言及して「私たちは、社会的危機を恐れるべきではありません。社会的危機によって、人権と持続可能な社会の実現のための政治的責任が奪われることはありません」と述べていました。どんな状況であれ、それを理由にSDGsの達成が遅れてはならない、SDGsは「願いごとリスト」ではない、という強いメッセージでした。
プロフィール:久保田 将樹(くぼた まさき)
一般社団法人SDGs市民社会ネットワーク
アドボカシー・コーディネーター
教職経験の後、オーストラリアの大学院で環境マネージメント学を学ぶ。卒業後、SDGs市民社会ネットワークの専従職員として主にアドボカシー事業を担当。