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[サステナビリティ紀行]平和な社会を実現するために
2022/09/29


今年2月に始まったロシアによるウクライナ侵攻は衝撃的なニュースでした。世界各地ではさまざまな紛争が続いている状況もあり、また核の脅威、緊張感も続いています。8月に国連では核不拡散条約(NPT)の会合が開かれました。平和な世界はどうしたら作れるのでしょうか。長年にわたって平和をテーマに活動しているピースボートの畠山澄子さんにお話を伺いました。

質問1:平和に関する活動というと、どのようなものがあるでしょうか。世界一周の船の旅を企画しているのは有名ですが、他にどのような活動をされていますか。ノーベル平和賞を受賞した ICAN(核兵器廃絶国際キャンペーン)とも連携していらっしゃいますが、主な活動について教えてください。

ピースボートは国際交流の船旅をコーディネートするNGOです。世界の人びとが出会い、互いの暮らす土地を訪ね合うことで、社会課題への関心が高まり、世界のどこかで苦しい状況におかれている人への連帯の文化が生まれると信じています。

具体的に取り組んでいる課題のひとつに核軍縮・核兵器廃絶への取り組みがあります。ピースボートは2017年にノーベル平和賞を受賞した核兵器廃絶国際キャンペーン(ICAN)の国際運営団体のひとつです。広島・長崎の被爆者や核実験の被害者と世界をまわり、子どもたちから首脳を含む政治家まで、幅広い人に核の被害の実相を伝えてきました。また、国連の協議資格をもつNGOとして、国連での会議にも市民団体として参加してきました。

これまで170名以上の被爆者がピースボートで世界に証言を届けた
(これまで170名以上の被爆者がピースボートで世界に証言を届けた)

ピースボートは船内や寄港地でSDGsを広める様々なプログラムを行っている(ピースボートは船内や寄港地でSDGsを広める様々なプログラムを行っている)

質問2: NPTにもコミットしていらっしゃいますが8月の会合はどのようなものでしたか。ウクライナ情勢は大きく影響しているのでしょうか。概要や感想など教えてください。現地でのNGOの動きなども教えてください。

5年に1度、加盟国が集いNPTの運用を見直す「再検討会議」が行われます。本来は2020年に行われるはずだった再検討会議がコロナで延期となり、この8月にニューヨークの国連本部で行われました。日本からもNGO関係者が渡米し、各国の代表者への働きかけやサイドイベントの企画、市民社会としての発言や情報交換・情報発信を行いました。私は現地には行きませんでしたが、これらの情報の受け手としてオンラインイベントに参加したり国内に広めたりする役割を担いました。

今回の会議では151の国々が4週間にわたって議論を重ねましたが、最終文書にすべての国が合意することができず「決裂」に終わりました。対立軸にウクライナ情勢が色濃く反映されていたのはたしかです。ロシアのウクライナ侵攻と核の恫喝に伴い、核戦争のリスクが高まったこと、ザポリージャ原発をはじめとする原子力施設攻撃のリスク、ブタペスト覚書の違反と消極的安全保証などが最終文書案での合意の壁となりました。

一方、ジェンダー主流化や軍縮教育に対する意識の高まりは歓迎すべきです。また、NPTが機能不全に陥る中、核兵器禁止条約が今後果たしていくべき役割も大きくなっていくでしょう。NGOとしては歩みを止めることなく、核軍縮・核廃絶に向けた具体的な行動を様々なプラットフォームで呼びかけていきたいと思っています。

NPT再検討会議の期間中は「NPT会議速報」というオンライン番組で現地の様子を伝えた
(NPT再検討会議の期間中は「NPT会議速報」というオンライン番組で現地の様子を伝えた)

質問3:SDGs市民社会ネットワークに協力して、平和をテーマにした講座「SDGs市民カレッジ」を企画されています。このカレッジで伝えたいことや特徴などについてご紹介ください。

今回の「SDGs市民カレッジ」では核を主軸に据えて平和やSDGsを考えます。人(people)、ジェンダー、環境、マルチステークホルダープロセスなど、各回異なる切り口から核と平和、核と持続可能性の関係をみつめます。

核の話を考えることは、社会の様々な矛盾と向き合うことだと思っています。誰かを犠牲にして成り立つ安全保障、解決策のない廃棄物の問題、偏った「力」の定義…。核だけでなく、平和や持続可能な社会を考えるときに避けては通れない問題ばかりです。

一方で、問題が大きすぎて解決の糸口や希望がなかなか見つけられないのもまた事実です。今回の講座ではアクションを実践している人たちの話にふれ、自分たちにもできるアクションを考えてもらう機会にもなればと思っています。

※SDGs市民カレッジ → https://www.sdgs-japan.net/single-post/sdgscollege2022
 

質問4:SDGs推進に向けたパートナーシップに関して、普段から思うことや団体で心掛けていることなどについて教えてください。

ピースボートの原点には「顔の見える国際交流」があります。頭でっかちにならず、たくさんの人と出会い話すことを大切にするというのは今も変わりません。ひとりよがりにならず、たくさんの団体とつながっていきたいと思っています。

それから、SDGsの根底にある「no one left behind(誰ひとり取り残さない)」は大事にしています。幅広いアピールを目指しつつも、その課題について考えるときに聞くべき声・拾うべき声はどこにあるのかということをパートナーシップを組んだり、維持したりする中で常に意識しています。
 

プロフィール:畠山澄子(はたけやま・すみこ)
畠山澄子ピースボート

ピースボートでは被爆の実相を世界に伝える「おりづるプロジェクト」や若者向けの教育プログラム「地球大学」に携わる。2017年3月の国連本部における核兵器禁止条約交渉会議で被爆者のスピーチを通訳。共著に『Navigating Disarmament Education: The Peace Boat Model(「軍縮教育 ピースボートの方法論」[英語書籍] )』『殺人ロボットがやってくる!?軍事ドローンからロボット兵器まで』。