[サステナビリティ紀行]誰も取り残さない社会のあり方~協同組合の理想と現実、その実践
2023/03/29
さまざまなステークホルダー・諸団体がSDGs達成に向けた取り組みをしていますが、生活者の団体として、さかんに取組みをしている生協が注目されています。そもそもSDGsの精神にとても近い理念をもって活動をしていたとのこと。これまでの取組や現状について、日本生活協同組合連合会の本木時久さんに話を伺いました。
質問1:生協という組織体は私たちの暮らしの身近なところに存在し、社会活動にも積極的に取り組まれています。その歴史や現在の活動状況について教えていただけますでしょうか。
生協とは「消費生活協同組合法(略称:生協法)」に基づいて設立される協同組合のひとつで、利用者である組合員自身が出資し、意思決定や運営に参画しています。日本全国に564の生協があり、各地域で事業種類は宅配や店舗での商品供給、共済事業、医療・福祉事業、夕食宅配事業などを行っています。また、組合員組織として組合員同士の助け合い活動やくらしに関わる学習活動など、各地域で幅広い活動に取り組んでいます。現代につながる生協の歴史は、大正時代に始まります。
1921年に現在のコープこうべの前身となる神戸購買組合と灘購買組合、1926年に現在の大学生協の前身となる東京学生消費組合、1927年に東京に江東消費組合などが設立されました。
このような生協の誕生の中心となった人物が“生協の父”といわれる賀川豊彦です。戦後、協同組合運動の復興を目指して、日本協同組合同盟(日本生協連の前身)が1945年に設立され、賀川豊彦が初代会長に就任しました。1951年に日本生協連が生協法(1948年制定)に基づき設立され、その初代会長も務めました。2021年度、全国の会員生協の事業概況は、組合員数3,017万人、総事業高3兆7,691億円で、北海道、岩手県、宮城県、福井県、兵庫県、宮崎県では世帯加入率が50%を超えています。
質問2:SDGsへの取組みはどのように始まりましたか?SDGs市民社会ネットワークにも関わっていますが、活動例にはどのようなものがありますか。
SDGsに合わせて取り組みを始めたというよりも、そもそも生協はSDGsの17目標の多くに関わりを持って活動していたと捉えた方がいいかもしれません。国際協同組合同盟(ICA)では、その2020年ビジョン「協同組合の10年に向けたブループリント」において、「協同組合を持続可能性の構築者として位置付ける」と宣言していますし、生協の21世紀理念として「自立した市民の協同の力で人間らしいくらしの創造と持続可能な社会の実現を」と掲げています。具体的な取り組みとしては、子ども食堂やフードバンクの支援、地域諸団体やNPO、行政、自治体との連携、ピースアクション、森林・海洋環境配慮型製品の開発と普及、産直事業での温室効果ガス排出削減、エシカル消費推進、地域見守り活動、リサイクルセンターの設置、ワークライフバランスの強化、男女共同参画に向けた取り組み、などです。
(コープみらい店舗のフードドライブ活動)
質問3:協同組合の組織どうしの連携はありますか。SDGs達成に向けて取り組む上での課題や展望について教えてください。
長野県の農業ボランティアをJAと生協で支援
日本協同組合連携機構(JCA)を通じた協同組合間連携の力で地域課題解決に取り組んでいます。具体的にはJAグループと生協、漁協、森林組合の協業での岩手県釜石市尾崎半島での災害復興支援、生協と農協、漁協、森林組合、ワーカーズコープの協業での「信州まるごと健康チャレンジ」、その他、愛知での地域活性化の取り組みや兵庫での高齢者支援などです。今後も好事例を共有化、可視化することでますますこういった取り組みを増やしていきたいと考えています。
一方、課題が無い訳ではありません。組織そのものや連携の規模が大きくなることで出来ることが増えるのも事実ですが、片方で対立が生じることで調整に手間取り、迅速かつ大胆に行動できなくなったり、自主自立性が損なわれたりします。また、社会課題は地域によって様々です。それは同じ都道府県や市区町村のなかでも場所によって違っていたりします。大切なことは一人ひとりが目の前の課題を自分事として捉え、その解決に向け動き出せる環境をどのように生み出せるか、また継続させるかということではないかと考えます。
質問4:協同組合以外のステークホルダーとの連携・パートナーシップについて、提案やコメントがあればお願いします。
都道府県や市区町村との包括連携協定や社会福祉協議会、NPOなど実例を上げれば、枚挙にいとまがありません。生協はこれまで、戦後の混乱や高度経済成長、その後の失われた25年などを背景に、食や平和、環境など大きなテーマの下、組合員の力を結集して社会課題解決を事業として取り組んできました。しかし、今や社会課題は無数にあり、どれかを解決すればまた新たな課題が発生するといったモグラ叩きの状態です。これからは生協が決めたテーマの下に人を集めるのではなく、既に動き出している人や団体に生協のリソースを生かしてもらう、相乗効果を出す、といった発想の転換が必要と考えます。
プロフィール:本木 時久 (もとき ときひさ)
日本生活協同組合連合会 執行役員 組織推進本部長。
大学卒業後、1989年に灘神戸生活協同組合(現コープこうべ)入所。宅配の現場を経て、2003年より2010 年まで宅配事業の改革に従事。夕食サポート事業立ち上げ後、2012 年より組織改革「次代コープこうべづくり」を担当。「社会的課題を解決する事業体のトップランナー」を掲げ、生協価値の再構築を推進。2018年6月より日本生活協同組合連合会出向、生活用品事業、総合マネジメントを歴任し、2021年にはコロナ禍における働き方改革を推進。2022年4月より現職。平和・環境・食、消費者政策、災害支援などと並行して、次代に向けた生協運動、組合員活動の変革を推し進めている。