[サステナビリティ紀行]人間中心主義はもう限界。発想を転換しよう!~動物かんきょう会議プロジェクト~
2024/09/25
未来の子どもたちのために。地球環境問題に関心を持ってもらうために、動物視点から環境問題を考えるという柔軟な発想の育成を目指すユニークなプロジェクトが行われています。
今回、1997年の地球温暖化防止京都会議COP3をきっかけに誕生した「動物かんきょう会議」の世界観及びプロジェクトを考案した、株式会社ヌールエ デザイン総合研究所のイアン筒井さんにお話を伺いました。
質問1:動物かんきょう会議の誕生ヒストリーや、アートやワークショップによる環境問題のアプローチに関しての具体的な活動内容をご紹介ください。
環境問題の原因をつくってきた欧米先進国たちがリードする国際会議では持続可能な世界をつくるための合意形成はむずかしそうだ。いっそのこと、人間という枠を離れたポジションで真剣に話し合う場があったならば? 国や宗教・民族・文化・ジェンダーなどの枠が取り除かれ、高い視点で人間(人間も動物の一種)が地球上で生存していくための知恵の共有やいい案が閃くのではと考えたのです。「動物かんきょう会議プロジェクト」はこの世界観の実践です。当初は絵本シリーズ(全7話)やNHK Eテレで放映したアニメシリーズ(全20話)などで作品を発表していきました。
2015年から始めた体験対話型ワークショップ「せかい!動物かんきょう会議」では、人間から動物の立場にポジションチェンジ(擬動物化)した国内外の子どもたち・若者たちが、人間の脅威を話し合ったり、人間に言いたいことを発表しあったりします。会議後、動物から人間に戻った参加者たちは、動物たちの訴えに共感したひとりの人間として「何をすべきか」「何がしたいか」を自ら問い、気づいていくのです。現在、日本国内だけではなく、アジアの子どもたちとの交流会議も行い、のべ1万人以上が参加しています。
質問2:異文化理解・多様性許容にはコミュニケーションの場が重要ということで、世界の子どもたちが動物キャラクターになりきって毎年開催されている、「せかい!動物かんきょう会議 in SDGs 未来都市UBE」ですが、プロジェクトを実行して良かった点やご苦労があった点、今後の活動のヒントになると思った点などあったら教えてください。
まず良かった点。子どもたちは、動物目線になって考えるとクリティカルシンキング(批判思考)が自然にできてしまうという発見です。動物になりきって本気で怒り出す子どもたちも多数います。そこには「人類の繁栄のためには自然や動物たち(自分たち)の犠牲はしょうがない」という言い訳はありません。そういう発想自体がとても不愉快なことに感じられ、仲間たちのために人間と交渉したり、人間たちへ良いアイディアを出し合ったりする子どもたちの真剣な姿勢にはいつも感動を覚えます。
苦労という点。この取り組みは、2018年にSDGs未来都市のひとつ山口県宇部市が主催する次世代人材育成事業で、市内小・中学校の教育現場の授業枠(90分x2日間)を使用して「市民インストラクターが中心となり実施する」のがルールです。さまざまなバックグラウンドをもつ市民をプロインストラクターへと養成する研修を開催したり、やる気とスキルに応じた謝金など事務局の負担は大きいです。
「知識を伝えるティーチング」が役割の先生方。「気づきを促すラーニング」が役割の市民インストラクター。この役割分担が宇部市の子どもたちの右脳左脳・動物脳に活気を与えていると評価され、今年で7年目の継続となりました。市民インストラクターを中心とした自立型運営が進んでいる「宇部モデル」には、東京、静岡、新潟、札幌や海外などからも研修参加があり、プロジェクトの担い手が広がっています。
また、本プログラムの初期案は2013年、第2回ESD環境学習モデルプログラム(ガイドブック7頁)として掲載されています。そのことが宇部市での導入の決め手になっています。
質問3:「せかい動物かんきょう会議inSDGs 未来都市UBE」の2024 年では、どんなトピックスがありましたか? 私たちが学ぶべき点や、注目すべきテーマ、参考になるような情報等がありましたらご紹介ください。
1970年代に著書「成長の限界」(ローマクラブ)で、人類が作り出している世界は持続”不”可能であると警鐘されてから50年たってもなお、この世界は気候変動、紛争や戦争、貧困格差など悪化の一途とたどり、明るい未来が描きにくい。さらに、専門家、科学者、環境活動家たちの多くは「人類が技術革新と経済成長の結果、みずからを滅ぼしている現実」を嘆くばかりで、改善の糸口がなかなか見えない状況です。
2024年夏、「もう人間(おとな)だけにまかせちゃいられない!」と小学生4年生から大人たちを対象に、未来をデザインしていくための対話型書籍「どうぶつに聞いてみたアニマルSDGs」を発行しました。
「せかい!動物かんきょう会議」の主な対象は小・中学生で、その目的は、自ら課題に気づいていくことを促すメソッドであるのに対し、本書を活用したワークショップ「アニマルSDGs」の対象は高校生~大人たちです。目的は、自ら気づいたことを解決していくための「サステナブルデザイン思考」の技術や、共生の思想・哲学、ヒントを伝えることです。閉塞感ある現状を突破できるクリエイティブな次世代人材の育成を試みるものです。
(日本語版リンク)https://animalsdgs.stores.jp/items/652768d00961240032933d46
(英語版リンク)https://amzn.asia/d/1OEN7ae
質問4:プロジェクト実行にあたり様々なステークホルダーとの連携があったかとおもいます。パートナーシップに関してや、SDGs 推進に向けた次世代人材の育成について、普段から思うことや活動で心掛けていること、これからの展望等を教えてください。
SDGsがうまくいってません。今の大人たち、特にステークホルダーたちほど現状を変更することを本気では望んでいないようです。SDGsには1~17もテーマがあるので、それぞれが「できること」を好き勝手に解釈してアピールしてしまうのです。これまでの大人たちの失敗の尻拭いをさせられるのが次世代の子どもたちなのですが、日本の子どもたちの環境意識は先進国の中でも特に低く、日本の大人たちは次世代人材を育成する責任を果たせていません。
その根本原因は、私たち大人が未来の「あるべき姿」について、これまで真剣に考えた経験がなく、クッキリとしたイメージもなく、目先の課題をなんとかしなきゃという近視眼的発想の枠から出られないでいるからです。子どもたちには「ポイ捨てをしない」「節電する」「木を植える」のようにこれまで知っていて、できることに思考がまとまってしまいます。
動物(視点)になって考えるとどんな世界が見えてくるのでしょう。一例を紹介します。「私たち(生きもの)が森や水をつくり、他の生きものたちに無償で与えますが、人間は私たちに感謝もせずに金儲けをしています。私たちの労働の対価を請求してもいいですか?」「私たち(動物)は食べ残しをポイって捨ててますが、環境問題は起こしませんよ。土にかえります。わたしたちの生活の仕組みをもっと見習ってください!」などと思考が飛躍します。
バイオミミクリー(生物模倣)という学問領域がありますが、人間は単に「生物の形状」を模倣するだけではなく、これからは自らの行動を反省し「(人類の先輩である)生きものたちから生き様やその思想哲学」に学ぶことで、フランスの経済学者ジャック・アタリが提唱する「死の経済から命の経済へ」とシフトするヒントを得られると考えます。
本プロジェクトでは、未来の「あるべき姿」をシンボル化して、人間SDGsに逆提案しています。有限の地球環境の中で、人類が動物の一種として他の生きものたちと折り合いをつけている共生の姿をSDGsの18番「KIDS AS FUTURE GENERATION」で表現。ステークホルダーはこの目標からデザイン思考で「今、できていないこと」をはっきりとさせ、次世代と対話を重ねていくのです。Beyond SDGsへ。「誰一人取り残さない(leave no one behind)」を誓う人間たちへのすべての生きものからの提案なのです。
プロフィール:イアン筒井(イアン つつい)
株式会社本田技術研究所(HONDA R&D)を経て、1995年にヌールエ デザイン総合研究所を創立。
「動物かんきょう会議」プロジェクトの原作者&総合プロデューサー。小学生から大学生・社会人を対象に、動物になって考えることで既成概念の枠をはずし、自由でクリエイティブな発想ができる人材の育成を進めている。
・アニマルSDGsのnote