[サステナビリティ紀行]世界社会開発サミット、再び 人間が人間らしく暮らすために
2025/11/26
11月4日から6日まで、カタール・ドーハにて「第2回世界社会開発サミット(WSSD2: Second World Summit for Social Development)」が開催されました。1995年にデンマーク・コペンハーゲンで開催された第1回サミットに続き30年ぶりに開催される今回のサミットでは、前回のサミット以降の急速な社会環境の変化を受け、貧困撲滅や社会的包摂をはじめとする幅広い分野の社会課題について多様なステークホルダーが参加し議論が行われました。
今回のサミットにNGOとして参加された創価学会インタナショナル(SGI)の赤須清志さんに、WSSD2の現場の様子などについてお話を伺いました。
質問1:今回のサミットに参加することになったきっかけや、サミットのテーマに関連して普段行っている活動などについて教えてください。
私たちの活動の根幹には、仏法思想に基づく「生命の尊厳」があり、これはSDGsの「誰一人取り残さない」という誓いと深く響き合うものです。2030年のSDGs達成期限、さらにその先の目標を見据え、「聞かれない声を届ける(社会的包摂)」ために参加を決めました。
普段は、国連のような国際的な場と、地域社会という現場をつなぐ役割を重視しています。昨年は国立競技場で開催された「未来アクションフェス」に参画し、気候変動や核兵器廃絶といったテーマについて、一般の若者に関心をもってもらい、その声を国際社会に反映させる仕組みづくりに注力してきました。 また、超高齢化が進む東北地方のいくつかの地域では住民への聞き取り調査を基に「未来座談会」を実施し、地域の持続可能性を模索しています。こうした草の根の活動からの教訓を、国際的な意思決定の場へ届けることが私たちのミッションです。
質問2:今回のサミットでは、社会の発展や持続可能な社会の実現に関連する幅広い分野について議論が行われましたが、特に注目したテーマやイベントなどについて教えてください。
特に注目したのは、昨年の未来サミットで採択された「未来のための協定」で示された「Beyond GDP(GDPを超えて)」などがどう議論されていくかと、少子高齢化社会における社会的包摂のあり方です。これらは日本だけでなく世界共通の課題として深く認識されていました。
その中で、SGIとして主催した公式関連行事では、「人権教育とジェンダー平等」をテーマに掲げました。人権教育がどのようにジェンダー平等の基盤となり得るか、各地域の実践を共有し議論を深めました。「人権教育」をハブとしてジェンダー平等の実現を目指すというアプローチは、今回のサミットにおいてもユニークな視点として評価いただけたと感じています。

250以上の関連行事が行われた会場。
大きさに驚きました。館内には見たことある彫刻も。
質問3:サミットでは、政治声明を採択するための公式プログラム以外にも、市民社会フォーラムをはじめ様々な会合やフォーラムなども開かれたと聞きました。市民社会フォーラムではどのような議論がありましたか?
国連総会議長や副事務総長が市民社会フォーラムの開会式にまで参加するなど、国連側が「政府だけでなく、市民社会の力が不可欠である」と強く認識していることが印象的でした。
SGIは市民社会フォーラムに設けられた10のセッションの1つである「信仰を基盤とした団体(FBO: Faith-Based Organizations)」のセッションにも参加し、ニューヨークの同僚がモデレーターおよび全体報告を担いました。残念ながら、採択されたドーハ政治宣言の中にFBOの貢献は明記されませんでしたが、議論の中ではその重要性が再確認されました。
最も支援を必要とする人々に対し、時には国連と現場の中継役となり、時にはエンパワーメントを通じて主体性を引き出す。長期的な視点でコミュニティの「結節点」となってきたのが宗教者や草の根のリーダーたちであり、分断された社会を再び結びつけるために不可欠な存在であると訴えました。

市民社会フォーラムの宗教者のパネルディスカッションの様子。
会場も満員でした。
質問4:今回のサミットを受けて、今後国内外の取組に対して期待していることはありますか。また、関係するステークホルダーとの連携やパートナーシップについて、提案やコメントなどがあればお願いします。
サミットを通じて痛感したのは、「宣言(言葉)を行動に移すこと」の重要性です。SDGsという言葉が生まれる前から、市民社会は現場で貧困や労働環境の改善に取り組んできました。この歩みは、どのような政治宣言があろうとなかろうと止まることはありません。
今回、世界的な分断の影響で、会議への参加すら叶わなかったパートナー団体も多く存在しました。そうした厳しい現実があるからこそ、単に物資を送ったりする一方的な支援以上に、一人ひとりの意識変革やエンパワーメントこそが真の変革につながると確信しています。今後は一層、地域で活動する諸団体や企業の皆様とも連携し、互いの強みを生かしながら、行動を共創していきたいと願っています。

展示会場では、様々な取り組みが紹介されていました。
カタールの文化を紹介するウードの演奏も。
プロフィール:赤須清志(あかす きよし)
創価学会インタナショナル(SGI)開発・人道担当プログラムコーディネーター
地球憲章インターナショナルと共同制作した「希望と行動の種子」展などを通じ、持続可能な開発のための教育・啓発に従事。「現状を知る」ことから「エンパワーメント」へとつなぐリーダーシップ醸成に尽力している。
