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[サステナビリティ紀行]国際家族農業年から考える持続可能な社会
2014/12/25

語り手:國學院大学教授 古沢広祐さん

●持続可能性を巡る議論において「農業」が重要なテーマとして注目されています。一体どのようなことが問題視されているのでしょうか。

現在、TPP(環太平洋経済連携協定)などの成長戦略の下では、貿易自由化の促進によって安い食料を世界各地から入手することができるようになり、人々の暮らしはより豊かになると言われています。しかし外見上の食卓の豊かさ、選択肢の拡大の一方で、世界規模における国際分業化とモノカルチャー(単一耕作)化、そして巨大企業による品種・栽培・加工の集中化と画一化が進み、深刻な多様性の喪失が進んでいくと言われています。世界の食料・農業が、安売り競争の下で、グローバルにスーパーマーケット化していくような事態が起ころうとしているのです。

競争の世界化による生産性の向上と価格低下は、経済の論理からみればメリットであるといえます。しかし、それは経済効率の価値尺度だけの一面的なメリットにすぎず、環境・社会・文化面など、評価しにくいところでは問題が生じています。すなわち、食と農を介して大地と自然に結びついた地域的多様性とバラエティに富んだ文化的多様性は喪失し、世界的に農山村の生活基盤やコミュニティーの崩壊現象が起きているのです。地域と風土に根付いてきた家族農業が消え、食文化や社会・文化の多様性から自然資源(遺伝子を含む)の多様性までもが消え去っていくことに対する危機感が高まっています。

●国連は2014年を「家族農業の年」に定めました。このことをどう評価しますか。

インド南東部アラク地域かつて農業近代化一辺倒の政策を推進してきた国連食糧農業機関(FAO)は、地球環境問題の深刻化や地域の伝統的農業の価値を見直すようになり、絶滅の危機に瀕している家族農業を再評価するようになりました。人類の食料の大半は、地域の小農民と家族農業で担われてきたのですが、その果たしてきた役割の重要性を、家族農業年は問いかけていると言えるでしょう。(右写真:インド南東部アラク地域、標高1300mの少数民族居住地域。オーガニック/フェアトレードのコーヒー生産組合の産地の村にて村人との交流風景)

●小規模家族農業は、持続可能な社会づくりにおいてどのような役割を持つのでしょうか。

福島県南会津地球上で他の生物とも共存しながら永続的に暮していくためには、自然と調和する食と農の在り方が重要です。地球の陸地全体で土地の利用状況をみると、人間の活動領域として最大の面積を占めているのが農業地域(放牧地、林業地も含む)です。自然環境と人工環境のいわば接点として非常に大切な機能を担ってきたところで、地球環境と人間が共存するための要に位置しているのです。

米国に象徴される新大陸型の大規模でモノカルチャー・貿易志向型の農業に対比すると、人口稠密な中で地域の風土に馴染んで育まれてきた日本やアジア地域の農業は、里山に代表されるように地域の多様性とコミュニティーが共存してきた場所です。生物多様性を保持する持続可能な地域として、自然・農村・文化が複合する家族農業的な在り方が、新たな文脈のもとで再評価される時代になってきたと思います。(右写真:福島県南会津、昭和村でのゼミ合宿、農業体験の風景)

(参考サイト)国際家族農業年から始まる小規模農業の道
都市生活者の農力向上委員会内レポート
オルター・トレード・ジャパン(ATJ)内レポート



古沢広祐氏古沢広祐(ふるさわ こうゆう)
國學院大学経済学部教授。大阪大学理学部生物学科卒業。京都大学大学院農学研究科(農林経済)修了、農学博士。環境社会経済学、持続可能社会論。著書に『地球文明ビジョン』日本放送出版協会。『共生時代の食と農』家の光協会、共著に『共存学』弘文堂など。(特活)「環境・持続社会」研究センター(JACSES)代表理事。(特活)日本国際ボランティアセンター(JVC)理事、市民セクター政策機構理事など。