[サステナビリティ紀行]生態系をいかした防災・減災(Eco-DRR)
2015/02/20
語り手:IUCN(国際自然保護連合)シニアプロジェクトオフィサー 古田尚也さん
●生態系をいかした防災・減災(Eco-DRR)とは、どのようなものをいうのでしょうか。
健全な生態系には、様々な防災・減災の機能が備わっています。たとえば、健全な森林は土砂崩れを抑制することが知られています。また、海岸の砂浜やサンゴ礁は波のエネルギーを和らげます。海岸のマングローブ林や海岸防災林は、高潮や津波の被害を軽減することが知られています。
このように直接的に災害のもととなるハザードの発生を抑制したり、そのインパクトを和らげるという役割が生態系には備わっています。
このほかにも、いったん災害が発生した後に、飲み水や燃料を供給することで被害の拡大を防いだり、あらかじめハザードの発生が予想される場所を保護地域として設定することによって開発を抑制し、災害の被害が起こりにくくするということもできます。
生態系を基盤とした防災・減災はEcosystem-based Disaster Risk Reduction(Eco-DRR)と呼ばれ、2004年に発生したインド洋津波以降、国際的に注目されるようになってきています。
●なぜEco-DRRが大切なのでしょう。また、国内外には、Eco-DRRのどのような事例がありますか。
Eco-DRRだけで、すべての災害を防ぐことができるわけではありません。ただし、Eco-DRRには、災害のない平時においても様々な生態系サービスの提供を通じて便益をもたらしてくれることや、地元にある材料や技術、そして伝統的な知識を生かして実践することが可能であること、事業費や維持費が安価であることなどの様々なメリットがあるといわれています。
今後、気候変動の影響で気象や水に関係する災害が増加することが予想される中、従来の工学的なアプローチだけではなくEco-DRRのアプローチを取り入れる事例が、先進国でも途上国でも増えてきています。
たとえば、オランダでは洪水を堤防だけで防ぐのではなく、ある程度以上の洪水はあふれることを前提とした治水政策に2007年から転換しました 。米国ではハリケーン・サンディ復興戦略の中で、かならず自然を活用したアプローチ(グリーンインフラ)を検討することが勧告され、Eco-DRRの要素を取り入れた復興計画が提案されています。
●Eco-DRRを広めるうえで、市民社会にはどんなことができるでしょうか。
日本でも、渡良瀬遊水地や蕪栗沼とその周辺水田のように、治水と環境保全の両立を目指した素晴らしいEco-DRRの事例が全国各地に存在しています。
実は、こうした事例は、市民の方々の力がなければ実現しなかったといっても過言ではありません。役所や専門家は往々にして縦割りで、しばしば自分たちの狭い領域しか見ていません。一方、市民は地域を総合的に見る目を持っており、こうした市民の視点や市民からの提案、粘り強い活動がEco-DRRを広げる上で大変重要な役割を持っているのです。
(右写真:ラムサール条約に登録されている宮城県蕪栗沼とその周辺水田は、洪水調整の遊水地として機能するとともに雁をはじめとする渡り鳥の貴重な生息地となっている)
※(参考)
減災(災害リスク削減)のための環境の手引き
ハリケーン・サンディ復興戦略と海岸のレジリエンス
古田尚也(ふるた なおや)
IUCN(国際自然保護連合)シニアプロジェクトオフィサー。東京大学農学系修士課程修了。2009年よりIUCNで生物多様性に関するグローバルな政策形成に従事。2011年以降、生態系を基盤とした災害リスク削減(DRR)や気候変動適応(CCA)の政策推進にあたる。