[サステナビリティ紀行]新興国ブラジルにみる持続可能な開発の未来
2015/03/25
語り手: オルター・トレード・ジャパン政策室室長 印鑰智哉さん
●ブラジルはリオ+20開催国でありSDGs提唱国のひとつでもありますが、持続可能な開発という観点から、ブラジルはどんな課題を抱えていますか。
ブラジルは現在、2つの相反する方向を同時に進もうとしていることを押さえる必要があります。まず1つの方向が持続可能な開発とはまったく相反する自然収奪型の大規模開発です。
現在、ブラジル政府はアマゾンに巨大なベロモンチダムなど大規模水力発電所の建設を進めています。水力発電は熱帯地域の巨大ダムは生態系に大きなダメージを与え、メタンガスの排出など温室効果ガスも排出します。何より、先住民族の生存に脅威を与えます。しかも生み出される電力はアマゾン地域での鉱物資源掘削に使われます。アマゾンでの大規模鉱山開発はアマゾンの生態系をさらに危険に曝します。
もう1つの大規模開発の例は遺伝子組み換え大豆に典型的な大規模モノカルチャー推進です。遺伝子組み換え企業、穀物メジャーなどがブラジルの広範な地域で力を握り、大規模モノカルチャーが拡大しています。しかし、それは農薬使用の激増、森林伐採の加速、環境破壊、人びとの健康破壊を生み出しており、社会的にはわずかな雇用しか生み出さず、持続可能な開発とはまったく相反する動きになっています。
●ブラジルから読み解く持続可能な未来に、どんな可能性を感じていますか。
ブラジルでは、上記の方向とは異なる動きも生まれています。その軸となっているのがアグロエコロジーです。アグロエコロジーとは生態系の持つ力を引き出す農業実践であり、そうした農業を可能にする社会・政治運動であり、さらにはそれを研究する科学として定義されています。
伝統的な農民の知恵と世界の科学の知見を対話させ、農民の主体性を尊重しながら進めるその方法は近代的な農業に比べても生産性において劣ることはなく、世界を養う十分な力があるということでFAOでも注目されています。
グローバリゼーションが進む中で農業や食の流通が多国籍企業に支配されつつある中で、環境や食の安全が危険に曝されつつあります。そんな中で、生態系と社会を守るアグロエコロジー運動が生まれたことには大きな注目を寄せるべきことだと思います。
こうした動きはブラジルでは1980年代後半から始まり、特に2000年以降、加速して大きな社会運動となり、2012年にはブラジル政府の政策に取り入れられました。ブラジル政府内に矛盾する政策が同時に進められている中、どちらを見るかでまったく違って見えます。後者には大きな可能性を見ることができると思います。(写真;ブラジル・マトグロッソ州の奥地、ボリビア国境に近い地域で大規模放牧で砂地化・荒廃してしまった土地をアグロエコロジーで甦らせた家族農家。)
印鑰智哉(いんやく ともや)
アジア太平洋資料センター(PARC)で研究部門担当、ブラジル社会経済分析研究所(IBASE、リオデジャネイロ・ブラジル)で日本資本の影響を研究、JCA-NET設立・事務局長、Greenpeaceを経て、現在、オルター・トレード・ジャパン(ATJ)政策室室長。UNCED92(リオサミット)、Rio+20にも参加。遺伝子組み換え企業の動向、それへのオルタナティブとしてのアグロエコロジーを中心に追う。